005)アガサ・クリスティ(ノン・シリーズ)

2008/10/28

春にして君を離れ

春にして君を離れ
著者:アガサ・クリスティ(メアリ・ウェスト. マコット)
訳者:中村妙子
解説:栗本薫
★★★★★

ほかのクリスティ作品と違って、誰も殺されないし、何も盗まれない。
ただ一人の主婦の回想物語。
しかし、さすがクリスティ!と思わせる一冊である。

「可愛い子供たちに囲まれ、優しい夫にも恵まれ、私って、なんて幸せなんでしょう。」と思っているジョーン。
バグダッドに住む末娘の見舞いからイギリスに帰る途中、天候不順のため数日間、動きがとれなくなってしまった。話す人も誰もいない、読むべき本もないところで、できることは自分について考えることだけ。考えるにつれて、愛に満ちていたはずの家族との関係に疑問を抱き始める。
彼女が何におびえているのか、何をおそれているのか、読み進めるうちに徐々に明らかになり、ついに彼女は、夫の本当の姿、子供たちの本心を知ることを無意識に避けている自分を見つける。それを知ったときのジョーンのとった行動もまた、彼女らしいものだった。

夫の言葉、子供たちの言葉が、ジョーンの心の動き次第で別の意味を帯びてきて、「幸せ」というものの儚さを感じずにはいられない。

ジョーンの心の描写だけで話は進んでいくのだが、全く飽きさせることのないクリスティの力に感服。

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