「死体」を読む
「死体」を読む
著者:上野正彦
★★★☆☆
書店で見つけて、思わずタイトル買いしてしまった本である。
ミステリ好きとして、無視できないタイトルだとは、思わないだろうか?
この本の中では、元監察医である著者が、その経験を基に、エドガー・アラン・ポーの「マリー・ロジェエの怪事件」や、芥川龍之介の「藪の中」、横溝正史の「犬神家の一族」などの殺人事件を検証している。
それぞれの被害者の状況検分や、犯人の検証など、実際の法医学からみておかしな箇所を指摘している。
そういうことにこだわらなくても、面白く読めるのがミステリなので、それはそれでよいのだが。
また、面白い見解を示してくれた。
山の近くで育った犯人は海に死体を捨てに行き、海の近くで育った犯人は山に死体を捨てに行く、というのである。
山で育った人間には、重い死体を担いで山の中を歩き、地面を深く掘って、永久に死体を埋め隠すのが難しいことをよく知っている。
海で育った人間には、海流や時化の関係で、死体が岸へ打ち寄せられることを知っている。
だから、お互い逆の方法を選ぶというのだ。
著者ご本人が多少苦し紛れの説だ、というのだが、私は納得してしまった。
そういうものかもしれないな、と。
ミステリのみでなく、実際の事件についても数件触れられている。
生きている人間を相手にして病原を突き止める臨床医と、死体を前にして何故に死んだかを突き止める監察医。
生きている人間ならば、自分の状態や症状が起きる前後に何をしたかなど、医者に向かって話すこともできるだろうが、死体はそうはいかない。
「死人に口なし」という言葉もある。
が、しかし本当にそうなのだろうか...?
「死体」を事細かく検分することにより、「死体」が自分の死因を語ってくれることもあるのではないだろうか。
著者が指摘しているのは、我が国において監察医の制度が整っているのは、まだ大都市圏のみだということだ。
その他の地域においては、解剖して死因を明らかにしたい場合でも、財政的な問題などで不可能になるケースもあるのだそうだ。
本書を読んで、解剖せずに「病死・自然死・事故死」などと判断された死体が、実は殺害されたものであるというケースも、十分にあり得るような気がしてきた。
自分を死に至らしめた理由を話したがっている「死体」を黙らせてしまっているのは、こういう制度なのだろう。
今後、監察医制度がさらに整備された暁には、「殺人事件」がさらに増加するかもしれない。
いままで表に出てきていなかったものが、浮かび上がってくるからだ。
法医学の重要性を改めて認識できた気がする。
著者の他の作品も読んでみたい。
また、随時、ご紹介していきたいと思う。
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