七つの怖い扉
著者:阿刀田高、小池真理子、鈴木光司、高橋克彦、乃南アサ、夢枕獏、宮部みゆき
★★★☆☆
上記の作家7人の短編小説が1つずつ掲載された本書。
テーマは本書の表紙裏にある紹介文を引用しよう。
***以下引用***
「ねえ、私、生まれてから一度も〈怖い〉と思ったことがないの。あなたのお話で、私に〈怖い〉ってどんなものか教えてくださいな。」---ある作家は哀切と戦慄が交錯する一瞬を捉え、またある作家は「予感」でがんじがらめにする秘術を繰り出した。そしてまたある作家は、此岸と彼岸をたゆたうが如き朧な物語を紡ぎ出した....。
当代きっての怪異譚の語り部が腕によるをかけて作り上げた恐怖七景。
***引用終了***
1.迷路---阿刀田高
昌司は、年上の遊び友達から怖い話を聞かされる。「遺伝っていうやつは、先祖のだれかが人殺しをしていれば、それが頭の中に伝わる。けど、しばらくは隠れている。あるとき、ヒョイと出てくるんだ。」
昌司は、ものをよく忘れる。自分のやったことなのか、そうでないのかがわからなくなるときがあるのだ。ある冬、たくさんの雪が積もった。家の裏にある古い井戸の上に落とし穴を作った昌司。ちょうど通りかかった幼い女の子をおびき寄せて落とし穴に落としてしまった。急に怖くなった彼は、その上から雪を覆い被せ、無かったことにしてしまう。雪も溶けた頃、井戸の中をのぞいてみると、女の子のいた形跡がない。アレは本当のことだったんだろうか....。それとも先祖の記憶が残っているのか...。よくわからないまま時は過ぎていく。
昔話を読んでいるような、そんな感じで読み進めていたのだが、最後の1文で、ストンと物語を落としている。
全てが腑に落ちたような気持ちの良い読後感だった。
2.布団部屋---宮部みゆき
時は江戸。代々の主人が短命であることが有名な酒屋があった。その名を兼子屋という。
女は長生きするのだが、男は自分の子供が17、8になるころ、眠ったように死んでいく。
早死にの評判が定着している兼子屋は、無理な注文も受け、商人としてめいっぱいの誠意で得意客の信用をつなぎ止めていた。奉公人にもきびしいのだが、不思議と奉公人が逃げ出したり、不祥事を起こしたりすることがない。他の商人たちがうらやましがるほどである。
そんな兼子屋で、一人の女中が突然頓死する。16歳であった。理由もわからないまま病死ということで片付けられたのだが、この女中の妹の「おゆう」が代わりに奉公することになる。
さて、兼子屋にまつわる不幸の原因とはなんだろう、奉公人が従順な原因とは?
宮部みゆき氏の時代物は「ぼんくら」を持っているが、江戸の商家の様子が生き生きと描かれている。最後の謎解きも心地よい怖さと安堵を残している。さすが、である。
3.母の死んだ家---高橋克彦
ある作家と担当編集者がパーティの帰りに山道で迷ってしまった。夜も充分に更けた頃、ふと気づくと別荘地のあたりをさまよい歩いていることに気づく。しかも、作家の祖父が昔に所有していた別荘のある地である。
その別荘では、作家が幼い頃に母が自殺しているため、できるだけ嫌なことは思い出さないようにと、意識的に自分を遠ざけていた場所だった。幼すぎたため、記憶も曖昧になっている。しかし、別荘地を歩くごとに記憶がよみがえり...。
この物語の最初の一文は次の通り。
「思えば、すべては偶然などではなかったのかも知れない。」
最後にまたこの言葉を思い出すことになる。
この著者の作品は初めて読んだが、他の作品にも興味が沸いた。
4.夕がすみ---乃南アサ
自分の母の妹の子、つまり従妹の「かすみちゃん」が、立て続けに家族を失った。はじめは生まれて間もない妹。次に両親。ひとりぼっちになった「かすみちゃん」を、自分の家で引き取りたいと母が言い出した。
かわいい「かすみちゃん」が大好きな主人公は大賛成。しかし、兄が反対し、祖母も渋っている。そこを上手く説得し、一緒に住むことに決まった。
美しくて可憐な少女「かすみちゃん」。一目見た瞬間、だれでも好意を持たずにはいられないほど、いじらしく健気なのである。渋っていた祖母も、いつの間にか「かすみちゃん」のとりこに。
しかし、兄だけは相変わらず嫌っている。気味が悪いというのだ。
そんななか、今度は主人公の兄がバイク事故で死亡。悲しみに暮れる一家を慰めてくれたのは、家族を失っても健気に振る舞う「かすみちゃん」だった。
この七作の中で一番気に入った短編。無邪気な「かすみちゃん」に、私も惚れてしまった。
彼女の作品も初めて読んだ。やはり同じく他の作品も読んでみたい。
5.空に浮かぶ箱---鈴木光司
目が覚めた主人公が見た世界は、長方形に切り取られた空だった。とあるビルの排水溝のような溝の隙間に身体を横たえていたのである。夢とうつつとの間をいったりきたりしながら、記憶をたどっていく。
自分の状況を確認しようと、かろうじて動く上半身を少し起こしてみたが、足が見えない。自分の大きなおなかが視界を遮っているのだ。妊娠するようなことをした覚えがないが、妊娠していることは確かな様子。思い出すのは、急死した大学の先生の部屋で見つけたビデオテープ。
なんだか「リング」の続き物のような物語。
「リング」はそれなりにおもしろく読めたが、短編であの恐怖をよみがえらせるのは難しいのではないかと思った。
6.安義橋の鬼、人を噉らふ語---夢枕獏
時は鎌倉時代あたりであろうか...。
あるとき若い者が集まり酒を飲んでいた。ひょんなことから安義橋に出るという鬼の話になる。あれやこれやと盛り上がっていると、理屈者の源貞盛が反論する。そんなもの、いるはずがないではないか、と。どこの世界にもこういう人間が1人はいるものだ。酒の勢いもあってか、みなが「そういうなら、今からその橋へ行ってこい」と貞盛に仕掛ける。後に引けなくなった貞盛は、1頭の馬を連れ、橋へと向かった。残った若者達のうちの1人が、ある提案をした。これから自分が鬼に化けてその橋へ行ってやるというのだ。誰かが見に行かなければ、本当に貞盛が橋まで行ったのかどうか、確認できないではないかという。もしやってきたのであれば、鬼の振りをして驚かせてやろうというのだ。言い出したのは菅原道忠。
さて、橋の上では何が起こったか...。
時代物ということもあり、少し取っつきにくい部分もあったが、最後のオチは、さもあらん、という感じである。
7.康平の背中---小池真理子
特にこれといった感想もない。
ちょっとそっけないと言われるかもしれないが、オチも落ちているのかどうかわからないようなものだし、本書の中では、唯一最後まで読むのがつらかった作品である。
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