001)アガサ・クリスティ(ポワロ)

2008/11/27

ハロウィーン・パーティー

ハロウィーン・パーティー
著者:アガサ・クリスティ
訳者:中村能三
解説:長谷部史親
★★★☆☆

楽しいパーティで少女が残酷な方法で殺害された。
水で満たされたバケツに頭を押さえ込まれ、溺死させられたのだ。
その少女、パーティの準備中のおしゃべりの中で、過去に殺人を見たことがあると口にしている。パーティに招かれていた推理作家のオリヴァ夫人は、それが原因ではないかとポワロに謎解きを持ちかける。
さて、彼女が目撃したと思われる「殺人事件」。
過去に起こったいくつかの事件が候補としてあげられるのだが、いろんな話がゴチャゴチャと並べられているような気がして...。もう少しポイントを絞ってくれたら、まだ読みやすかったのに。

トリックらしいトリックというのもないし、晩年の作品によくある小説の雰囲気や人間関係の機微を楽しむストーリーといったところだろうか。ポワロものじゃなくてノンジャンルだったらよかったかもしれない。

しかし、最後の最後にちゃんとオチを準備しているところが、クリスティらしい。

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2008/11/26

第三の女

第三の女
著者:アガサ・クリスティ
訳者:小尾美佐
解説:石川絢士
★★★☆☆

なかなか事件が起こらず、一体全体何に向かって行くのかわからなくなる。クリスティの中期以降の作品には多い。事件が起きるまでに相当の時間を費やすものが。

ポワロが幸せな朝食を堪能している最中に、若い女性が飛び込んでくる。ポワロを訪ねた理由というのが、
「私、殺人を犯したらしいのです...」

結局ポワロが歳をとりすぎているように見えるから依頼できないと言い残して彼女は帰ってしまうのだが、ポワロは気になって仕方がない。「歳をとりすぎている」と言われたことも相当悔しかった様子。友人である探偵作家オリヴァ夫人の協力もあって、不思議な言葉を残して去った女性の身元を突き止めることに成功した。ただしかし、彼女の言う「殺人」が見つからない。死体なき殺人の謎...。
本当に「謎」が多すぎて、なかなか解きほぐせないせいか、進展が遅く感じた。

それでも結局はあるパターン通りの結末かな。作品中で何度も強調されているものは、やはり重大な意味を持っているのだ。そのあたりに注目して読み進めると、何となく犯人にたどり着く。

ハッピーエンドの結末はクリスティっぽくていい。

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2008/11/25

複数の時計

複数の時計
著者:アガサ・クリスティ
訳者:橋本福夫
解説:柿沼瑛子
★★☆☆☆

正直言って、つまらなかった。
クリスティ作品、特にポワロものに甘い私でも読むのがつらかった...。
やっぱりスパイやなにかが絡んでくると面白くない。
ポワロが安楽椅子探偵に徹しているせいもあるかもしれない。なんだか歳をとってひがみっぽくなった感じがして、ポワロが好きなだけに読むのがしんどかった。クリスティ自身、あまりポワロが好きじゃなかったのか...。

冒頭部分はとてもよかった。
タイプ引受所から派遣されたタイピストがある家を訪れると、沢山の時計があり、全てが4時13分を指している。実際は3時過ぎにもかかわらず、だ。そして床の上には男の死体...。それが何者かもわからないときている。

第一発見者であるシェイラも出生の秘密を抱えているし、その家の持ち主である盲目の女性もなんだか謎めいているし、とても期待を持たせる始まり方だったのに、読み進めるにつれて段々とつまらなくなっていくのだ。
何故だろう?
たぶん飾りが多すぎたんだな。謎のてんこ盛りって感じだった。

読み終わったあとも「やっと終わったか...。」という感想しかなかった。登場人物にも魅力を感じなかったし。

ただ、ポワロが語るミステリ談義は読む価値有り。この部分が一番楽しかった。クリスティのミステリ感が出ている。

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2008/11/23

鳩のなかの猫

鳩のなかの猫
著者:アガサ・クリスティ
訳者:橋本福夫
解説:浅暮三文
★★★☆☆

上流階級のお嬢様たちが競って入校したがるような名門女子校メドウバンクで連続殺人事件が起きる。教師が次々と殺害され、最終的には4人が死んでいくのだ。

その事件の少し前、ある王国では革命騒ぎが起きていた。国王が命を狙われ、王国から逃げ出すため、側近と共に極秘に飛行機に乗り込む。その飛行機は事故で大破し、2人の死亡が確認され、国王の一族が蓄えていた何十万ポンドもの宝石の行方がわからなくなってしまったのである。

この国王の従姉妹がメドウバンク校に入校したことから、宝石が彼女に預けられたのではないかと、あれこれ怪しい人物が近づいてくる。

3教師の連続殺人事件は宝石紛失と関係があるのか、それとも個人的な怨恨によるものなのか...。最後は、意外と言えば意外、そうじゃないと言えばそうじゃない、二面性のある結末となった。
2つの動機が絡む連続殺人。1つの動機には全く魅力を感じないし興味もないが、もう1つの方は私の好きなタイプの犯罪。
無機質な殺人ではなく、非常に人間的な殺人。
だからこそ、何とも言えないもの悲しさが漂う。

それにしても、この作品。ポワロものじゃなくてもよいと思うのだが。浅暮三文氏が解説でも触れていたが、この作品は犯人を当てる「推理」に重点を置いたものとは思えない。
「消えた宝石はどこに!」といった感じのハラハラドキドキを楽しむものだ。だからポワロが活きてこない。ポワロファンとしては、もったいないなと残念に思ってしまう。
ポワロが出てこない方がかえってよかったかもしれない。

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2008/11/22

死者のあやまち

死者のあやまち
著者:アガサ・クリスティ
訳者:田村隆一
解説:横井司
★★★☆☆

この作品も10数年ぶりに読み返したのだが、詳細はほとんど記憶になかった。何となくこんな感じだったかなという程度で、一番のキーポイントである「屋敷の持ち主は誰か?」についてはすっかり忘れていた。
動機に繋がる大事なポイントなのに。

オリヴァ夫人にはからきし弱いポワロの困った様子が出ている冒頭部分がいい。
いきなりオリヴァ夫人から電話がかかってきて、「とにかく今すぐこちらに来てくれ、訳は言えない」と言われたポワロ。不満に思いながらも好奇心からか旅支度を始めてしまうのだから、オリヴァ夫人の作戦勝ちといったところか。上手いことポワロを引っ張り出した。

オリヴァ夫人が知人に頼まれ、ある田舎の大きな屋敷でのパーティで行われる殺人犯人捜しゲームの筋書きを担当することになった。
オリヴァ夫人がポワロをこのパーティに参加するようにと頼む。なぜなら、なにか悪い予感がするからだというのだ。
その予感は見事的中。ゲームの最中に被害者役の少女が、本当に殺されてしまう。しかも、パーティが行われた屋敷の夫人も行方不明に...。

実は、あまりオリヴァ夫人は好きではない。本当に支離滅裂すぎるので。
今回もいろいろな推理を展開していたが、少し邪魔だなと感じてしまう。
直感はいいので、ポイントを突いていることは多々あるのだが、なんせ非論理的なのである。

真相に絡むある老婦人のエピソード自体は好きだ。このエピソードだけなら10点満点。母親の切なさが出ている。

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2008/11/21

ヒッコリー・ロードの殺人

ヒッコリー・ロードの殺人
著者:アガサ・クリスティ
訳者:高橋豊
解説:JET
★★★☆☆

とある学生寮で小さな盗難事件が連続して発生。盗まれたものは...

靴の片方、安物のブレスレット、
化粧用のコンパクト、高価な指輪、
聴診器、イヤリング、シガレットライター、
古いフランネルのズボン、電球、
箱入りのチョコレート、絹のスカーフ、
リュックサック、ホウ酸の粉末、
バスソルト、料理の本

ポワロがこの寮に乗り込んだすぐあと、一人の寮生が、このうちのいくつかは自分が盗んだんだと告白する。しかし、次のものは盗んでいないと主張するのだ。

聴診器、電球、リュックサック、ホウ酸の粉末

さて、これらは何のために誰によって盗まれたものなのか...?
最後にはポワロの推理によって、全てのものがあるべき場所に収められていくのだが、一見すると何の意味もなさそうなものばかりなのに、それぞれがちゃんとした役割を担っているのだ。ここが面白い。

ただやはり大きな組織とかが絡んでくると、その分だけ私の評価は下がってしまう。個人的な犯行であっても、こういう組織の存在があると、なんだか面白みが減ってしまう。
私の好みには合わないようだ。

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2008/11/19

葬儀を終えて

葬儀を終えて
著者:アガサ・クリスティ
翻訳:加島祥造
解説:折原一
★★★★★

裕福な一家の当主リチャードが死亡し、その葬儀の後で無邪気な末妹コーラが言い出す。
「あら、リチャードは殺されたんじゃなかったの?」と。
その翌日、彼女が惨殺死体で発見される...。
当然リチャードの死が疑われることになる。
病死と診断されていた彼は、本当に「病死」だったのか?
コーラは何かを知っていたために殺されたのか?

殺人のトリックや巧妙な伏線やミスディレクション、どれも素晴らしい作品なのだが、一番の魅力は何と言っても犯人のキャラクターにあると思う。私好みの犯人だ。
自分の欲望のためなら他人の命など簡単に消してしまえるある種の無邪気さを持った犯人には、背筋が寒くなるような怖さを感じる。夢見る中で行われた冷酷な犯行。一度読んだら忘れられない殺人犯だ。

スーシェ主演の「名探偵ポワロ」シリーズで本作品が映像化された。「名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 2」に収録されている。
トリックがトリックだけに映像化は非常に難しいように思えたが、こちらも素晴らしい作品だった(ネタバレにはなっていないと思うが、未読の方の興趣を削いでしまったとしたら、お許しいただきたい)。
再度鑑賞した後に、感想をアップしたい。

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2008/11/18

マギンティ夫人は死んだ

マギンティ夫人は死んだ
著者:アガサ・クリスティ
訳者:田村隆一
解説:仁賀克雄
★★☆☆☆

スキャンダルなどとは何の縁もなさそうなごく普通の掃除婦が自宅で撲殺され、30ポンドの現金が盗まれた。ただ一人の間借人ベントリイの服に彼女に血が付着していたことから、彼が逮捕され、死刑が確定する。
しかし長年の刑事の勘から彼は犯人ではないと感じたスペンス警視は、ポワロに再調査を依頼することに。

一番問題なのは「動機」だ。
財産を持っているわけでもなく、痴情沙汰に巻き込まれそうもない老婦人を殺そうと思う人間がいるだろうか。確かに30ポンドの現金が盗まれているが、それが果たして殺人の動機になるかどうか...。
「動機」を見つけるキーポイントは、彼女の職業。彼女は「掃除婦」だった。いろんな家に出入りすることができたし、その家の秘密も知り得る立場にいたのだ。彼女に秘密を知られてしまった人物、それが犯人である。
(「家政婦は見た!」シリーズみたいだな(苦笑))

確かに二転三転する展開に驚かされるが、私の評価はあまり高くない。15年ぶりくらいに読み返したのだが、詳細はほとんど記憶に残っていなかった。
オリヴァ夫人が登場していたことも忘れてしまっていた。
クリスティ作品の中では少し長めの作品なのだが、話のテンポが遅いというか、なんというか...。
つまりは冗長なのだ。謎解きよりもポワロの愚痴に付き合わされているような、そんな印象を受けた。
トリックはそれほど悪くないのに、少し残念。

クリスティ後期のポワロシリーズは、こんな感じのものが多い気がする。

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2008/11/12

満潮に乗って

満潮に乗って
著者:アガサ・クリスティ
訳者:恩地三保子
解説:中川右介
★★★★★

前日に引き続き、魅力的な女性が登場する作品。
気が強くて負けず嫌いなリン・マーチモント。
か弱くて無垢な心を持った女性ロザリーン・クロード。
2人とも非常に個性のある魅力的な女性だ。
私はリンのほうに、より好意が持てる。

戦地から田舎に戻ってきたばかりのリン・マーチモント。戦争が終わって何もかもが高価になる中、日々の食事の準備にさえも心を悩ませる母を憐れに思いながらも、裕福だった叔父の遺産を狙おうとする母や親族に嫌悪感を抱く。婚約者であるローリーに対しても...。

リンの婚約者であるローリーは戦争中は出征せず、ずっと田舎にとどまっていた。戦地での日々を経験したリンからみれば、彼は少々退屈に見えてしまう。
彼と結婚し退屈な一生を送ることに迷いを感じているとき、見るからに危険な香りのする男と出逢った。裕福だった叔父と結婚したばかりの若い未亡人ロザリーンの兄、デイヴィッド。叔父の遺産を奪った相手になるわけだ。
最初は敵対心を抱くが、徐々にデイヴィッドに惹かれていくリン。それに気付き、ローリーは焦り始める。

デイヴィッドとローリー、リンとロザリーン。
この4人の恋物語としても非常に面白い作品だが、もちろんミステリとしても読み応えのある一冊でもある。
このミステリでは、3つの死体が出てくる。
果たして殺人なのか、自殺なのか、はたまた事故死なのか..。それすらよくわからない。
最後の最後に1人の人間が本性をあらわす。それが少し突拍子ないと言えなくもないのが少々難点だが、驚かされることには間違いはない。
このミステリのポイントも「動機」。
一見単純な犯行に見えるけれど、絡まった糸のように様々な人間の思惑が入り組んで、なかなかほどけてはくれない。

この物語で一番印象に残ったのは、戦争についてのリンの言葉だった。

***以下引用***

子供のころからいつも彼女は、はっきりした頭脳の持主で、ものごとを明快に裁ける人間だった。自分の望んでいることと望まないことをつねにはっきりできる人間だった。いままでは、あなたまかせなふらふらした動きかたをただの一度もしたことがないのだ。
そうだ、それなのだ。そのふらふらした動きなのだ!
あなたまかせの、はっきりした目的のない生き方。それが彼女の故郷に帰ってからの毎日だった。
あの戦場の日々への郷愁が波のようにリンの心を襲った。各自の責任がはっきり規定され、生活は一糸みだれぬ計画にしたがってはこばれ、そして個人の裁断などというものが必要とされなかった日々がリンにはなつかしかった。
だが、そう考えてゆくうちに、リンは急にぞっとしてきた。みんなこんなことを考えているのだろうか、心ひそかにみんなが願っているのはこんなことなのだろうか? これがつまり戦争が人々の心に植えつけていったものだろうか?
戦争の本当の怖ろしさは、けっして肉体的なものではなかった。海にかくれた水雷、そらからの爆弾、荒野を走る車にうちこまれるライフル弾のうなり、そんなものは、肉体だけの記憶でしかないのだ。本当に怖ろしいのは、考えることをやめればずっと楽に生きていかれるということを知る、精神の記憶なのだ。
現在のリン・マーチモントは、入隊したときの頭脳明晰な決断力に富んだ娘ではなくなっている。彼女の頭脳は、職場では専門化され、整然と分類された範疇の一つにはめこまれてしまっていた。そしていま、ふたたび自分自身の、そして自分の生活の主人に戻ったリンは、自分の個人的な問題を把握することから顔をそむけているような心のあり方にぎょっとさせられている。

***引用終了***

戦後だけじゃなく、現代でも当てはまりそうな感じがする。マニュアル化された世界に慣れれば慣れるほど、そしてそれに慣れることが早い人ほど、同じことを感じるのかもしれない。
決して「マニュアル」自体を否定するわけではないのだが...。

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2008/11/11

ホロー荘の殺人

ホロー荘の殺人
著者:アガサ・クリスティ
訳者:中村能三
解説:はやみねかおる
★★★★★

ポワロものの一つだが、この作品の中でポワロはそれほど重要な役割は果たしてない。クリスティが語っているように、ポワロはいなくてもよかったように思う。

この物語にはいろいろなタイプの女性が登場。
その類いまれなる天真爛漫さで周囲を困惑させるにもかかわらず、人を惹きつけずにいないアンカテル夫人。
誰よりも強くて、優しくて、知性にあふれるヘンリエッタ。
報われない愛をいつまでも大事に暖め続けて、自分の道をひたむきに歩いていくミッジ。
ただひたすら夫と子供のことのみに自分の人生を捧げ、その愛にすがって生きているガーダ。
常に人に注目されることを望み、全ての男性が自分にはひざまずくものだと信じているヴェロニカ。

ガーダの夫ジョンの元恋人がヴェロニカ。今の恋人がヘンリエッタ。ミッジはエドワードを愛しているが、エドワードはヘンリエッタしか見えていない。
それぞれの愛が絡み合っている中、悲劇が起こる。ジョンが射殺されるのだ。
動機は...? 嫉妬? それとも...。

ミステリとしても、恋愛小説としても、とても読み応えのある作品だ。登場する女性たちがみんな魅力的。一度読んだら忘れられない人ばかりだ。
それに比べると男性陣は、ちょっと不満足かな。それでも彼女たちにとっては魅力ある男たちなんだろうけれど。
私の評価は、魅力的な女性が登場する作品だと甘くなる傾向にあるな。

最後のシーン。
悲しみに埋もれてしまいたいと願いながらも、それができないある女性の言葉で終わる。常に冷静な第三者が自分の中に存在していることに気づいてしまう彼女。一番悲しい女性かもしれない。

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2008/11/10

五匹の子豚

五匹の子豚
著者:アガサ・クリスティ
訳者:桑原千恵子
解説:千街晶之
★★★★★

16年前に裁判も終了し、一応の解決をみた殺人事件について再調査して欲しいという依頼を受けたポワロ。
依頼人は、カーラ・ルマルション。毒殺されたのはカーラの父。犯人として裁かれたのはカーラの母だった。夫殺しの犯人として獄中死した母は、無実だったのだとカーラは信じている。

事件の関係者は5人。
殺害されたカーラの父アミアスの親友、メレディス。
アミアスを敬愛していたメレディスの弟、フィリップ。
カーラの母カロリンの異父妹、アンジェラ。
アンジェラの家庭教師、セシリア。
そして、アミアスの愛人、エルサ。

まず、ポワロはこの5人を訪ね、この事件について手記を書いて欲しいと依頼する。既に解決した事件を蒸し返して何の意味があるのかと、誰もが不審に思いながらも、承諾する。

一人の気まぐれな芸術家が愛人を家庭に連れ込み、そして毒殺された。第一発見者である妻が、激しい嫉妬から殺害したものとして逮捕された。この事実を、5人それぞれが違う視点から捉え、振り返っている。
同じ会話を聞いていても、同じ行動を見ていても、受け取り方次第でこんなにも解釈が異なるのかと、驚かされた。

16年前の事件であるから、物的な証拠は何一つと言っていいほど残っていない。頼るべきはただ関係者の証言のみ。しかも、それが真実を述べているのかどうかの確証もない証言だ。
それをもとに、当時の警察も見つけられなかった真実をポワロが見つけ出す。最後に関係者を集めてポワロがいつもの謎解きを始めるのだが、その鮮やかさには、惚れ惚れする。
物的な証拠のみに頼らず、関係者の心理面からの捜査を重視するポワロならではのミステリだ。

もちろん最後には真犯人が明らかになる。
クリスティ作品の中でも、一、二を争うほど、哀しい結末だった。

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2008/11/09

白昼の悪魔

白昼の悪魔
著者:アガサ・クリスティ
訳者:鳴海四郎
解説:若竹七海
★★★★☆

このミステリは「伏線の見事さ」に尽きる。冒頭部分から、どんな小さな言葉も、どんな些細な出来事も、ちゃんと真実へ導く手がかりになっている。
クリスティの作品は、伏線がキチンと張りめぐらされているものが多いが、ここまで「計算されてるな」と感心するのも珍しい。初読より、再読したときの方が、感動が大きいかもしれない。

美しくわがままな女性と、一見おとなしいその旦那。
若くて精悍な男性と、気が弱くて悲観的なその妻。
そして、美しい女性と若い男との火遊びが始まり、お互いの伴侶が嫉妬に苦しんでいる中、その美女が殺害される...。

ポワロが登場する中編「砂に書かれた三角形(『死人の鏡』に収録)」と同じシチュエーション。
ただし、結果は...?。

DVD
地中海殺人事件

クリスティ「白昼の悪魔」を映像化。ただし、ポワロ役はピーター・ユスチノフ。
登場人物を絞っている。削られた人物の設定を、他の人物が引き継いだりしている部分がちらほら。全ての人物がみんな被害者アリーナを殺害する動機を持っており、誰も彼もが怪しく見えてしまう。
原作の持つ「悪」の重さは感じられなかったが、風景や音楽など、映画ならではの華やかさはある。

依頼人に旅費の上乗せをねだったり、水着姿になってみたり、私の持つポワロのイメージとは違いすぎるポワロがでてきた。これって、ポワロじゃないよ...。そんなことばかりが気になってしまった。
スーシェのポワロになじんでしまった今となっては、ピーター・ユスチノフのポワロは、なんだか違和感がありすぎ。原作に登場するポワロより、コミカルさだけを強調した感じ。
スーシェは、イギリス人の中にあって、私の目からも一目で"外国人"だとわかるが、 ピーター・ユスチノフは、馴染んでしまっているように見える。
デビッド・スーシェの「名探偵ポワロ 完全版 Vol.31「白昼の悪魔」」も、観たのだが、感想は後ほど...。

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2008/11/07

愛国殺人

愛国殺人
著者:アガサ・クリスティ
訳者:加島祥造
解説:小森健太朗
★★☆☆☆

クリスティお得意の童謡殺人の一つ。マザー・グースをよく知っていたなら、もっと楽しめるんだろうなと思う。
日本の童謡(子守唄、手鞠唄)をモチーフにした殺人が、横溝正史氏の金田一シリーズでもある。童謡の持つ無邪気さと、殺人の残忍さのギャップがあればあるほど、恐怖を感じる。
マザー・グースにあまり親しみを感じていないためか、この恐怖の部分が味わえなくて、残念だった。

英国ではタイトルが「One,Two,Buckle My Shoe」だったそうだ。それが米国版では「The Patriotic Murders」に替えられた。日本での「愛国殺人」というタイトルはここから来ている。最初は内容とちぐはぐな気がして、意味がわからなかったのだが、小森健太朗氏の解説を読んで納得した。なるほど、よく考えられたタイトルである。

しかし、そのタイトル通り、政治色が少し強くて、私の好みには合わなかった...。そうではなくて、遺産狙いや痴情沙汰と絡めるとかだとしたら、もっと面白かったのに。

トリックとしては、派手なものがあるわけではないのだが、いろんなところに細かな伏線が張られていて、読みながら何度も、前の方に頁を戻したりした。この点、犯人がわかった後に読み返してみても、楽しめる作品である。

ポワロに真相を突きつけられたとき、自分以外の命は虫けら同様に価値がないと言う犯人に対し、ポワロが言う。

「私のたずさわっているのは自分の命を他人から奪われない、という権利を持っている個々の人間に関することです。」

例えどんな理由があろうとも殺人は認めないというポワロの一貫した姿勢に改めて感動する一作。

物語の最後に心地よい"オチ"があることの多いクリスティ作品だが、この作品でも、それがある。ある人物にポワロがしてやられるのだ。
ずっと何かを隠しているらしいということは感じていたのに、それを突き止められなかったポワロ。本人からその真相が告げられたとき、ポワロはさぞかし悔しかっただろうな。

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2008/11/06

杉の柩

杉の柩
著者:アガサ・クリスティ
訳者:恩地三保子
解説:山野辺若
★★★★★

バラのように美しい女性メアリイが、エリノアの作ったサンドイッチを食べた直後に、苦しみだし死亡する。
エリノアが幼い頃から愛し続けていた婚約者ロディーが、メアリイに心変わりしたせいで婚約解消になったこともあり、動機も充分。全ての証言・証拠がエリノア有罪を指し示しているように見える中、ただ一人エリノアの無罪を信じようとする医師ピーターの依頼を受けて、ポワロが事件の真相追究にに乗り出す。

真犯人の意外さや殺害のトリックもいいのだが、何より心理描写の巧さが際立つ作品だと思う。
エリノアは、被害者メアリイを心から憎んでいた自分を誰よりも知っている。その死を望んだ瞬間が存在したことも嫌というほど自覚しているため、エリノアの無実を信じようとするピーターの気持ちと裏腹に、自分が殺したも同然ではないかと、その罪を認めそうになるのだ。

幼い頃から婚約者ロディーを全身全霊で愛し、その強すぎる気持ちを隠すために、必要以上に素っ気ない態度をとらざるを得ないエリノア。ロディーは、そんなエリノアの激しい愛には気づかず、表面に現れる彼女しか見えていない。
恋とは楽しいものではなく苦しいだけのものなのだと、恋人との結婚を目前にしていてもなお心からの幸せを感じられないエリノアの心理が、丁寧に描かれている。

まるでドラマを観ているかのように登場人物が生き生きと動いていて、臨場感のある法廷でのやりとりが魅力的な作品だ。

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2008/11/05

ポアロのクリスマス

ポアロのクリスマス
著者:アガサ・クリスティ
訳者:村上啓夫
解説:霞流一
★★★☆☆

冒頭にクリスティから義兄ジェームズへのメッセージがある。
ジェームズが最近のクリスティの描く殺人は洗練されすぎている、血が足りないという不満を述べたとのこと。「もっと血にまみれた、思いきり兇暴な殺人。それが殺人であることに一点の疑いも差し挟む余地のない殺人」を求めたとのことだった。
それに応えるように書かれたのが本書。確かにいろんな意味で「血」にまみれた作品だ。

クリスマス・イヴの夜、家族同士を争わせて楽しむような傲慢で頑固な老人シメオン・リーが、喉を掻き切られて殺害される。殺害された部屋は、中からドアに鍵がかかっていて、窓からも人の出入りができないような密室だった。いわゆる「密室トリック」をメイントリックにした作品というのは、クリスティには珍しい。他には...思い当たらないのだが、あったっけ?

このトリック、ちょっと無理があるような気がするのは、私だけか?
派手だけど、現実味にかけるというか...。
それにポアロが犯人を突き止めた理由というのが、ちょっとあやふやで、決め手に欠けるような気がする。なんだか雰囲気に頼っている感じがするのだ。

一つの家族が登場するだけだが、実に様々なキャラクターが集まっている。みんながみんなシメオンを殺す動機を持ち、それは経済的な理由であったり、恨みであったり。
しかし、最後にポワロが突き止めた犯人は、誰もが思いもつかない人物だった。
この犯人が明らかにされたとき、あるミステリが思い浮かんだ。これも"密室トリック"と"意外な犯人"で有名な古典ミステリだが、あまり詳しく書くと、ネタバレになってしまうかもしれないので、この辺にしておこう。

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2008/11/04

死との約束

死との約束
著者:アガサ・クリスティ
訳者:高橋豊
解説:東野さやか
★★★☆☆

「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」

このミステリは、こんな一言で始まる。
この言葉を発したのは、あるアメリカ人家族の次男レイモンド。話している相手は、彼の妹キャロル。殺してしまわなきゃいけない"彼女"とは、彼らの継母ボイントン夫人。

もと刑務所の看守であったボイントン夫人は、病的なほどに支配欲が強く、自分の子供たちを世間から隔離していた。さらに一種のサディストであった彼女は、子供たちが彼女の支配から逃れたいのに逃れられないと苦しむ姿を見て、喜びを感じていたのだ。

けれど長い間家の中で閉じこめられているうちに、子供らはそんな生活に慣れてしまう。彼らが自分の境遇を受け入れておとなしくなってしまうと、ボイントン夫人はつまらなくなり、刺激を求めて海外旅行にでかけることにした。旅行先で、他人と自分たちの違いを見せ付けることによって、子供らに新たな苦しみを与えて楽しもうというわけだ。

よくもまあ、こんなにひどい人間を創り出せたものだな。これじゃ、殺されても仕方ないかもしれない。それでも「殺人は許されない」というのがポワロの信念。容疑者であるボイントン夫人の家族は、お互いをかばい合って、なかなか本当のことを話そうとしない。殺人が起きたとき現場にいなかったポワロが真相にたどり着くためには、その場にいた人たちの話を聞くしかないのだが、みんながみんな嘘をついている。そんな中から少しの食い違いを見つけ、徐々に真相に近づくポワロのテクニックは見事なもの。

最後に証される犯人は、非常に意外な人物である。クリスティ作品の中で、これほど意外性のある犯人が出てくるミステリも多くないだろう。
ちょっとずるいなとも思う。『そりゃないだろ~』とでも言いたくなるような感じだ。
しかし、伏線はキチンと張られているわけで、インチキしているわけではないのだが...。

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2008/11/03

ナイルに死す

ナイルに死す
著者:アガサ・クリスティ
訳者:加島祥造
解説:西上心太
★★★★☆

とても長いミステリ。全部で550頁を超えるくらい。しかも事件らしい事件が起きるのは250頁を過ぎてから。が、全体を包む邪悪な雰囲気に飲み込まれるようにこのミステリの世界に惹きこまれ、長さは全く気にならなかった。
登場人物も多いのだが、それぞれがとても個性的な人ばかりなので、名前は覚えられなくても、誰が誰だかわからないということはなかった。

親友ジャクリーンから恋人サイモンを奪い、自分のものにしてしまったリネット。そのハネムーンの行く先々にジャクリーンが現れ、リネットの神経はボロボロになってしまう。
3人の旅が進むうちに、徐々に緊張が高まっていき、何か事件が起こらずにはいられないような雰囲気に、偶然一緒に旅をすることになったポワロは不安を感じる。

その予感が的中し、ある夜、惨劇が起きた。リネットが射殺されたのだ。
しかし最も容疑の濃いはずのジャクリーンには、強固なアリバイがあった。

リネットのように生まれたときからお金持ちで、人も羨むほどの美貌と知性を持った女性は、自分でも気づかないうちに、いろんな敵を作ってしまうようだ。彼女に身の周りには、その死を望む人が多く隠れていたのである。ジャクリーンだけが殺人の動機を持っていた訳ではなかった。

誰もが怪しい行動をとる中、ポワロが推理を開始。

トリック的にはそれほど目新しいものではないけれど、小説としての完成度は高い作品だと思う。事件が起こるまでの長い前半部分では、展開はスローだが、徐々に高まる緊張感を感じさせながら、読者を引っ張っていく。
事件が起きてからは、次々に容疑者に関する新事実が明らかになり、どんどんスピードアップ。

しかし、よくもまあこんなに裏のある人間のエピソードを集められたものだ。殺人犯以外にも嘘をついている人が大勢いるものだから、真相がなかなか見えないのだ。終盤でポワロが語っているように「事件とは無関係な、まぎらわしいものを全部とりのぞいて、真実だけがみえるように」しなければ真犯人はわからない。
殺人事件とは関係ない小さな事件が絡み合って、より複雑なミステリになっている。

それにしてもポワロはどの時点で真相にたどり着いたのか?
読みようによっては、最初から知っていたようにも思える。非常に暗示的な言葉のやりとりが、あちこちで行われているのだ。

最後まで読んでも解けない謎がひとつ残ってしまった。
作品の冒頭で、とある高級なフランス料理店でポワロが食事をする。どんな有名人でも、どんなお金持ちでも、なかなか特別待遇が受けられないこのお店で、ポワロは非常に大切にもてなされている。
どうやら過去にこの店で殺人事件が起き、それをポワロが解決したらしいのだが、どの事件なのかが思い当たらない...。短編なのか?
店の持ち主の名は「ムッシュー・ブロンダン」。
いつかまたこの名に出逢う日が来るだろうか。それまで忘れないようにしなければ。

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2008/10/31

もの言えぬ証人

もの言えぬ証人
著者:アガサ・クリスティ
訳者:加島祥造
解説:直井明
★★★★☆

捜査依頼の手紙を受け取り、その現場に向かったときには、時既に遅し。当の依頼人は死亡した後だった。医者も病死だったと断言しているその死に疑問を抱き、捜査を開始するポワロ。依頼人のいない事件だから、捜査するにしてもすんなりとはいかない。あれやこれやと嘘のオンパレード。ポワロの口の上手さには、舌を巻くばかりだ。疑り深い田舎の人々を信用させては、いろんな事実を聞き出していく。

被害者エミリイの死に対して、ポワロだけが殺人事件なのだとこだわり続ける。中盤まではヘイスティングズでさえも、あきれるほど。ポワロが殺人だと確信した理由はなんだったのか...。

キッカケは『手紙』だ。書かれている日付から2カ月も過ぎて届いたエミリイからの手紙。しかもその内容は、エミリイの命が危険にさらされている可能性を示唆するものだった。それに興味を覚えて依頼人を訪ねてみると、既に死亡したという。
死亡原因は肝臓病によるものとされていたが、死の直前に起こったエミリイの階段からの転落事故について聞き、その階段に足を引っかけるように故意に糸を張ったらしい形跡をみつける...。エミリイの死は病気によるものだったかもしれないが、殺意を持った人間がこの場所にいたことだけは確かだと、そういってポワロは犯人を追い始めるのだ。
結局はエミリイの死自体も、殺人だったということになるのだから、ポワロの殺人事件に対する嗅覚は、本当に犬のようだ。

犯行の手口は、それほど目新しいものではない。しかし、犯人の心理というか、性格は、クリスティ作品らしいと思う。また心理的なミスディレクションも見事なもの。
誰もが疑わしく思える中で、終盤に近づくにつれ、ある一人の人物に疑いが集中する。そして最後の最後で、関係者が集められポワロが明らかにした真犯人は、非常に意外な人物だった。

この手の犯人は好きだな。決して"お友達"にはなれないけれど、ミステリの犯人としては魅力的。
自分の立場を充分に理解した上で、その役回りを上手に利用している。とても頭のいい犯人だと思う。

このミステリのタイトルにもなっている"もの言えぬ証人"ことボブ君。
クリスティ自身、大の犬好きだったそうで、ボブ君もとても生き生きと描かれている。やんちゃな犬ならこんなこと考えてそうだなとか、こんなふうにちょっかいだしてきそうだなとか、そんなシーンが一杯。
私も犬がとても好きなので、作者の犬への愛情も伝わってくるような気がした。

クリスティはこの作品の中でも過去の作品について触れている。ポワロがかつて解決した4つの事件の関係者の名前を口にするのだが、解説されている直井明氏のおっしゃるとおり、まだこの4つの作品を読んでいない方は、ここだけは飛ばしたほうがいい。というより、この作品を読む前に読まれることをお薦めする。
クリスティも罪なことをするものだ。

ちなみにこの4つの作品というのは、『雲をつかむ死』『スタイルズ荘の怪事件』『アクロイド殺し』『青列車の秘密』である。

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2008/10/30

ひらいたトランプ

ひらいたトランプ
著者:アガサ・クリスティ
訳者:加島祥造
解説:新保博久
★★★★☆

ブリッジの勝負の真っ最中に殺人事件が起こる。そこに居合わせたポワロは、ブリッジの得点表をもとに関係者の心理を分析し、真相を追い始める。

ブリッジのルールを知らないため、関係者の心理の動きがよくわからず、1回読んだだけの作品だった。
今回、15年ぶりくらいに読み返したが、なかなかどうして、非常に面白い作品だ。先入観はいけないな...。

被害者のシャイタナ氏は、人の秘密を嗅ぎつけてはその人をチクチクいじめて楽しむ悪魔のような男。ポワロは、そのシャイタナ氏からあるパーティへ招待される。そこで、かつて完全犯罪を犯した殺人犯のコレクションをお見せしますと言われるのだ。危険だからやめなさいというポワロの忠告を無視したシャイタナ氏は、案の定、そのパーティで殺害された。

容疑者は4人。全てが過去に殺人を犯した可能性のある人物ばかり。
そしてそのパーティに招待された探偵役も4人いた。現役の警視であるバトル。有名な探偵作家オリヴァ夫人。諜報局員であるレイス大佐。そしてエルキュール・ポワロ。
4人の殺人者に4人の探偵。
シャイタナ氏らしい悪趣味なパーティだ。これだけ殺されても仕方ないと思わせる被害者も珍しい。

前述したように、この作品を読むのは2回目。しかし、すっかり騙された。ずっとある人物が犯人だと思いながら読んでいて、最後の最後でドンデン返し。気持ちがよくなるくらい、完璧に騙された。
容疑者4人の過去の"犯罪"が暴かれていく様も見事である。

ブリッジのルールを知らなくても、充分にこの作品の面白さは味わえる。しかし、ルールを知っていれば、もっと楽しめると思う。この作品の再読にあたってとても参考になったサイトをご紹介しよう。ブリッジも面白そうなゲームだ。
 
かずちゃんのブリッジって何?

クリスティ作品でよくある他のミステリへのコメント。この作品でもでてくる。
ポワロがある女性に過去の犯罪の凶器を見せてあげると言うのだ。12人の人々が1人の男を刺したという短剣。有名な作品だが、どのミステリか、おわかりだろうか?

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2008/10/29

メソポタミヤの殺人

メソポタミヤの殺人
著者:アガサ・クリスティ
訳者:石田善彦
解説:春日直樹
★★★☆☆

被害者の付き添い看護婦の回想録として書かれている。
この事件で初めてポワロと出逢った彼女から見たポワロも新鮮。
私立探偵と聞いて、シャーロック・ホームズのようなイメージを抱いていたレザラン看護婦。実際にポワロと会ったときには、きっとすごく驚いたことだろう。

中近東らしい妖しい雰囲気の中、麗しい美女が寝室で頭を殴られて殺される。その寝室に出入りできる人物は、一緒に暮らしていた遺跡調査隊のメンバーだけ。一体誰が犯行に及んだのか...。
みんながみんな何かしらの蔭を背負っているようで、誰もが犯人のように思えてしまう。

思いやりがあって美しくて、頭もきれる。こんな誰もが愛さずにはいられなくなる女性が、被害者ルイーズである。
ただし、これは表面上だけのこと。実際の彼女は、自分が中心にいなければ気が済まないタイプ。頭がいいから、ごまかすことが上手で表面に出すことはしないが、巧みに人の心を操って、自分に関心を向けさせようとする。そんな彼女の性格が、自らの命を落とす要因となった。

ポワロも捜査当初から、被害者の性格をつかむことに専念する。物質的な証拠ではなく、ルイーズの性格こそに真相を暴く鍵があるというのだ。最後に真相にたどり着きはしたが、犯行を裏付けるだけの"物質的な"証拠は何もない。しかし"心理的な"証拠は充分だった。

最近読んだポワロものの中では自己中心的で同情の余地のない犯罪者ばかりと出会ってきたが、これは非常に悲しい殺人だ。自分勝手な犯行ではないとは言えないが、"冷たい"犯罪ではない。

この事件を解決したポワロは、ロンドンへ戻るときにオリエント急行に乗る。
ここであの有名な殺人事件に出逢うのだ。

いつか、ポワロの事件年表を作ってみたい。ハヤカワのクリスティ文庫の順番じゃないようだ。

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2008/10/27

ABC殺人事件

ABC殺人事件
著者:アガサ・クリスティ
訳者:堀内静子
解説:法月綸太郎
★★☆☆☆(2個半かな)

クリスティの代表作の一つだと言われている。私はあまり好きな方の作品ではないのだが...。
どちらかというと「謎解き」がメインというよりは、ドキドキするスリルを味わう作品なのかという気がした。
ヘイスティングスの記述と、第三者の記述を交互に入れるという手法も、そう思わせる要因かも。

閉ざされた人間関係の中で起きる殺人事件が出てくることが多いクリスティ作品だが、この作品では、いくつもの人間関係の輪っかが登場する。全く関係のない輪っかが、殺人者ABCによって鎖のように繋がっていくのだ。

ただ単にアルファベット順に選ばれただけに見える被害者たちを結びつけるものは何なのか...?
なぜポワロに殺人予告の挑戦状を送ってくるのか?
犯人の姿が見えない状態から、徐々に真相へと近づいていくポワロ。
終わりに近づくにつれ、緊張感が増してくる。

最初の3つの殺人には、犯行の動機も機会もある人間が、すぐ近くにいる。この犯人は、確かに個々の殺人の中で、他の人を巻き込まないように気を遣っていたかもしれない。全て「ABC」の犯行であると思わせるために。
だけど、結局は一番卑劣な方法で人を陥れようとした。ポワロがいうように、全く「フェアではないし、スポーツマンらしくない」犯行である。

この作品の冒頭で、久しぶりにヘイスティングスと再開したポワロが彼に語る。
最近はどうですかと問うヘイスティングスに対して、

***以下引用***

「つい最近も、危ないところだったんです」
「失敗しそうだったんですか」
「とんでもない」ポアロはぎょっとしたようだった。「だが、わたしが - わたし、このエルキュール・ポワロが、もう少しで抹殺されるところだったのです」
わたしはヒューッと口笛を吹いた。
「大胆な殺人者だな!」
「いや、大胆と言うよりは軽率です」

***引用終了***

これって、「三幕の殺人」のことだよな。
また、ジャップ警部との会話にも過去の事件が出てくる。
列車の殺人...。これは「オリエント急行殺人事件」かな。
航空機内の殺人...。これは「雲をつかむ死」。
そして、上流社会の殺人...。これも「三幕の殺人
こういうのって、見つけると嬉しい。ちょっとした宝探しみたいな感じで。

そしてもう一つ。
最初の方でどんな殺人事件を注文しますかとヘイスティングズに聞かれたポワロが答える。

***以下引用***

「四人の人間がブリッジをしていて、それに加わらない一人が暖炉のそばの椅子に座っている。夜更けになって、暖炉のそばの男が死んでいることが発見される。四人のひとりが、ダミーになって休んでいるときに、そこにいって彼を殺したが、ほかの三人はゲームに夢中になっていて気づかなかった。ああ、それがあなたにふさわしい犯罪ですよ! 四人の内の誰がやったのか?」

***引用終了****

注文通りの犯罪にその後関わることになった。
ひらいたトランプ』だ。
この作品については、近日掲載予定。

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2008/10/23

雲をつかむ死

雲をつかむ死
著者:アガサ・クリスティ
訳者:加島祥造
解説:紀田順一郎
★★★☆☆

大空を飛んでいる飛行機という密室の中で起きた殺人事件。
ポワロから数メートルも離れていないところで犯行に及ぶなんて、大胆な犯人だ。

犯行可能な人物は、乗務員とポワロを含めて13人。
それほど広くもない機内で、誰にも気づかれずに被害者に近づくなんて無理な話。
ましてや被害者の首筋に毒矢を刺すなんて...。
だけど殺人が行われたのは事実。
そこには心理的なトリックが隠されていた。

当初から乗客の所持品にこだわり続けたポワロ。
所持品のリストから、早々と犯人の目星をつけてしまう。
後でポワロの推理を聞いてみれば「なるほど...」と思うのだが、普通は気づかないだろう。
それぞれの人物らしい所持品ばかりで、違和感は無かったのだから。
それでもやはり「ちょっとした違和感」は感じてもおかしくないんだよな。
そこに目をつけるポワロって、やはりスゴイ。

他人の恋愛ごとに手を貸すのが好きなポワロ。
ここでもまた...。
2人がうまくいったのかどうかは最後までわからないが、きっと幸せに楽しく暮らすことになるのだろう。

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2008/10/22

三幕の殺人

三幕の殺人
著者:アガサ・クリスティ
訳者:長野きよみ
解説:日色ともゑ
★★★☆☆

このミステリでは、3人殺害されるのだが、非常に動機が特殊である。
利己的な殺人者の出てくるミステリは、これまでにもたくさん出逢った。
しかし、これほどまでに自分の都合だけで行われた殺人は初めてだ。
小説の中のこととはいえ、被害者の遺族の気持ちを考えると、たまらない。
こんなことで殺されるなんて...。

このミステリの特徴は、「動機」。
ポワロをもすら悩ませた殺人の「動機」。
人間って、こんなことで殺人を犯すものか?
だけど、この犯人ならやりかねない。
そんな風に感じさせるのは、クリスティの人物描写の上手さなのかもしれない。

さて、このミステリにはクィン氏のシリーズでおなじみのサタースウェイト氏が登場する。
ということは、必然的に彼は犯人じゃないってこと...?
いやいや、時々びっくりするようなドンデン返しが起きるクリスティ作品。
簡単にサタースウェイト氏を除外するわけにもいかない。

この事件はポワロ最大の危機が迫った事件でもある。
この言葉の意味は、ミステリの最後の1ページで明らかに。

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2008/10/20

オリエント急行の殺人

オリエント急行の殺人
著者:アガサ・クリスティ
訳者:中村能三
解説:有栖川有栖
★★★☆☆

クリスティのミステリの中でもとても有名な1冊。

国籍も、階級も違う乗客たちが乗り合わせた列車の中で殺されたのは、その昔、幼い少女を誘拐し殺害したにもかかわらず無罪となった男だった。
大雪のため動けなくなった列車の中で起こった殺人。
全ての乗客にはアリバイがある。
証言にも矛盾がない。
それでもやはり、犯人はこの中にいるのだ。

中盤までは全く五里霧中の状態だった。
誰にも殺人なんてできるはずがないのだから。
全ての乗客に完璧なアリバイがある。
それが後半に入ったとたん、次から次へと色んな事実が明らかになっていく。
証言に隠された嘘が明らかになるにつれ、意外な人間模様が見えてくる。

初めて読んだときには、それはそれは衝撃を受けた。
今回、約15年ぶりに読み返した。
もちろん犯人は覚えていた。
だからこそ、このミステリの巧妙さに改めて感動したのだ。
何も知らずに読んだ時の衝撃、知った上で読んだ時の感動。
いつも言うが、クリスティの作品は、何度でも楽しめる。

「殺人」という犯罪に対して、常に厳しい態度を崩さないポワロが、この事件では2種類の推理を披露する。
真実を示した推理と、犯人は列車外へ逃げてしまったという推理の2種類。
そして、列車の責任者に対し、どちらかを選ぶようにと話す。
真犯人への同情からだろうか。
真犯人は誘拐事件の被害者である幼い少女の関係者。
誘拐犯が無罪となったときの無念さ、自ら死刑を執行しようとした気持ちもわからないわけではないけれど、常に真実の味方であったポワロらしからぬ結末に、少しスッキリしない。
なので、★3つなのである。

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2008/10/19

エッジウェア卿の死

エッジウェア卿の死
著者:アガサ・クリスティ
訳者:福島正実
解説:高橋葉介
★★★★☆

エッジウェア卿の妻、ジェーン・ウィルキンスンの魅力の虜になってしまった。
これほどまでに自分自身を演じきられたら、お手上げだ。
常に他人の目から見た自分を計算して行動している女性。
生まれついての女優なのだろう。
それが成功していることを自覚しているからこそ、男性は全て自分に従うものだと信じて疑わない。

一個人の離婚問題などを手がけることなど考えもつかないポワロに、夫に離婚を承諾してもらうように話してくれと依頼するなど、彼女しかできまい。
戸惑いながら断るポワロを、最終的にはイエスと言わせてしまうジェーン。
そのときのポワロと彼女の友人のやりとりが印象的だった。

***以下引用***
「ムッシュー・ポアロ、あなたもやっぱりつかまりましたね。わがジェーンはあなたを説き伏せましたか? 彼女の味方になってくれるように。無理はありません。遅かれ早かれ、彼女のいうとおりにならざるを得ないのですからね。彼女は"ノー"って言葉を知らないんですよ」
「おそらくまだ"ノー"に出会ったことがないのでしょう」
****引用終了***

誰からも"ノー"と言われたことがない女。
それがジェーン・ウィルキンスンなのだ。
「この作品の魅力=ジェーンの魅力」だと私は思う。

もちろんトリックの方も、負けず劣らず、ではある。
あのポワロまでもが途中まで犯人の思惑通り騙されてしまったのだから。
物語の冒頭でヘイスティングズが語っているように、道ばたで偶然すれ違った見知らぬ男女の会話から、真相にたどり着いたポワロ。大胆すぎる犯行であるがために、かえって真相が見えにくくなってしまったのだろう。もしその男女とすれ違うことがなかったら、さすがのポワロも、まんまと犯人にしてやられることになったのかも...。

本書の最後に犯人の手記が書かれている。
あまりに利己的で、ある意味で無邪気な犯罪に、ゾッとした。
一度読んだら忘れられないミステリのひとつである。

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2008/10/17

邪悪の家

邪悪の家
著者:アガサ・クリスティ
訳者:田村隆一
解説:石崎幸二
★★★★☆

殺人のトリックらしいトリックは無い。
ただ中盤まで殺人の動機が不明なのだ。
その動機が明らかになったとき、おのずと犯人に迫っていく。

動機がわからないから、誰を疑っていいのかわからない。
しかも、みんながみんな何かを隠しているようで、誰もが疑わしい。
ポアロが真実にたどり着くきっかけとなったのは、ヘイスティングズの他愛ない一言。
その一言を聞くまでは、ポワロですら犯人の思惑通り、全然違う方に向かって推理を展開していたのだ。
最後まで読んで真実を知った後なら、なるほどと思うのだが、そのときは何がなにやらわからなかった。
ポワロが何にそんなに驚いているのか、何に気がついたのか...。

この犯人、かなり魅力的。
すごく利己的で、狂気に近いほどの執着心を持っていて、大胆不敵。
ポワロの名声を知った上で、彼を利用しようとするんだもんな。
一度読んだら忘れられない殺人者の一人だ。

そうそう、本書ではポワロが最後まで解けなかった謎が出てくる。
最後の最後に、謎を投げかけた本人に尋ねて、その謎は解決。
何の罪もない女性が殺害された重い事件だったのに、締めくくりのユーモアのおかげで、少しさわやかな気分で本を閉じた。

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2008/10/08

青列車の秘密

青列車の秘密
著者:アガサ・クリスティ
訳者:青木久恵
解説:北上次郎
★★☆☆☆

このクリスティー文庫で新訳になった作品は、なんだか読みやすくなった気がする。
より「日本語」らしくなったというか。
その分、原書がもつ言葉の雰囲気を上手く伝えられていない部分もあるのかもしれないけれど。
そのあたりは、どうなのかな。
なにぶん原書を読んでいない(読めるだけの語学力もない)ので、よくわからない。
しかし、読みやすくなったことは事実。
このシリーズ以前のクリスティ作品は、言い回しが難解で、とっつきにくい印象があったから(もちろん、だからといって優れていなかったわけではない)。

初めてこの作品を読んだのは、もう20年近く前で、本当に久しぶりに読み返した。
真相は何となく覚えていたが、冒頭の宝石を巡る取引についてはすっかり忘れてしまっていた。
本筋とどのように絡んでくるのか、それを楽しみに読み進めた。
最後の最後で、ちゃんと全てが繋がって、無駄に登場する人物がいないというところは、さすがだ。
読み終えた直後に、また最初のページをめくりたくなってしまった。

それでもやはり、私の好みの作品ではないな。
面白くないわけではないのだが、犯人に魅力を感じない。

だけど、非常に魅力的な女性が登場している。
クリスティは、人物描写が上手い。
殺害の直前に被害者から相談を受けたキャサリン・グレー。
滅多に感情を表には出さないけれど、決して冷たいわけではない。
自分の進むべき道を常に知っている心の強い女性という印象を受けた。
ヘイスティングズの居ないこの作品では、彼女がその代わりになっているよう。
ポアロの良き相棒といったところか。

そのキャサリン・グレーの住んでいた村というのが、あの「セント・メアリ・ミード村」。
そう、ミス・マープルの本拠地だ。
こんなところで登場していたとは、初めて気づいた。

気になるのは、骨董商のパポポラス父娘。
この話から17年前にポアロが解決した事件と関わりがあるらしいのだ。
その事件について、結構細かなところまで語られているのだが、これはクリスティの他の作品になっている事件なのだろうか?
クリスティー文庫を読み進めるうちに、どこかでまたこの父娘に出逢うかもしれない。
でも、この作品の中で犯人についても触れられているから、出逢うことはないかな。
まさか作者自身でネタバレはしないと思うが...。

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2008/10/04

アクロイド殺し

アクロイド殺し
著者:アガサ・クリスティ
訳者:羽田志津子
解説:笠井潔
★★★★★

本当は、「ビッグ4」の前に紹介すべき作品だったが、私としたことが、一番大事な作品を飛ばしてしまった...。
ポワロシリーズの長編でいうと、「スタイルズ荘の怪事件」「ゴルフ場殺人事件」「アクロイド殺し」の後に、「ビッグ4」がくる。

この本は、私が初めて手にしたクリスティの作品。
高校生の頃だったが、この本を読み終えた後、クリスティに夢中になり、小遣いのほとんどをクリスティの本の購入に使ってしまうハメになった。
それから20年以上経った。
その間、10回以上読み返しているが、何度読んでも、楽しめる。
伏線があらゆるところに張られているにもかかわらず無理が無くて、ストーリーがしっかりしているせいかもしれない。

まだ読んでいらっしゃらない方は、是非、何の先入観も持たずに、誰の書評も読まずに、まず本作を読むことをお薦めする。もちろん、DVD化されている映像を先に観るなんてことは、間違ってもしてはいけない。
その方が、絶対に楽しめるはずだ。

この物語では、ポアロの良き相棒、ヘイスティングズが登場しない。
前作のあと、彼は結婚してアルゼンチンへ行ってしまったのだ。
代わりに殺人が起きた村の医師、シェパードが、ポアロのワトソン役を務める。
シェパード医師は、ヘイスティングズと違ってお茶目なところがないので、その点が物足りない。
ヘイスティングズの勘違い推理は、ちょっとしたアクセントになって、楽しいのだが。

この本はクリスティの作品の中でも、かなり有名なもので、ちょっとネットで検索しただけでも、ネタばれすれすれの情報を目にしてしまうことも少なくない。
先にも述べたが、少しでもそんな先入観があると、面白味が半減してしまう。
先入観を全く持っていず、今までクリスティを読んだことのない方には、是非オススメだ。
ポアロもののミステリではおなじみの関係者全員を集めての推理展開、この場面の迫力はスゴイ。
そして、その後の展開も...。
未読の方には申し訳ないので、あまり詳しく内容を語れない。
そのため、中途半端な感想文になってしまったかも(^^;
 
関係書として「アクロイドを殺したのはだれか/ピエール・バイヤール著」がある。

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2008/10/02

ビッグ4

ビッグ4
著者:アガサ・クリスティ
翻訳:中村妙子
解説:若島正
★★☆☆☆

基本的に、スパイものは、あまり好きではない。
この本は、ポアロものには珍しくスパイ・スリラー仕上げになっている。
ポアロものじゃなかったら、よかったかも。
ポアロが好きなだけに、そう思った。

謎の犯罪組織「ビッグ4」の世界征服という野望を打ち砕くべく立ち上がったポアロだが、直接対決の前に、いくつかの小さな事件が起きる。
そのいずれも、ビッグ4に関係のある事件ではあるのだが、なんだか細切れにされたお話を無理矢理くっつけたよう。
ストーリー全体を通しての流れというのが感じられなかった。
それもそのはず、この話って、もともと短編だったものを一つの話に作り直したものらしい。
短編のままの方がよかったんじゃないかな。
一つ一つのエピソードは、それなりに楽しめたし。

で、なんだか話が大きすぎて、リアリティがないというか何というか...。
相手が「世界征服をたくらむ」組織なのだから、壮大にならざるを得ないんだろうけど。
リアリティがないといえば、ポアロの勘、良過ぎ。
「いくら灰色の脳細胞が優秀でも、なんでそこまで読めるのよっ」ってところが気になった。

ゴルフ場殺人事件』が解決した後、アルゼンチンに旅立ったヘイスティングズが、久しぶりに帰ってきた。
ポアロの好敵手でもあり好意を寄せる女性でもある、ロサコフ伯爵夫人も登場。
そしてなによりも、この物語の目玉はポアロの双子の兄弟アシール・ポアロ!
エルキュールはヘラクレス、アシールはアキレス。
両方ともギリシャ神話の英雄だ。

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2008/09/26

ゴルフ場殺人事件

ゴルフ場殺人事件
著者:アガサ・クリスティ
訳者:田村隆一
解説:熊倉一雄
★★★☆☆(2つ半)

初読は、高校時代。
この題名を聞いて、一番に思い出すのはヘイスティングズの恋。
今回久し振りに読み返した。
あらすじや、犯人、トリックについては、何となくしか覚えていなかったのだが、ヘイスティングズの身に起こった出来事については、とても印象深く残っていた。

同じように思い出されるのは、ジローとの対決。
ポワロと同様に自信家で、鼻持ちならないパリ警察のジロー。
しかも操作方法についてはポワロと正反対!
人間の心理を読みながら真実にたどり着こうとするポワロと、とにかく地面をはいずりまわって、物的証拠を探すことに執念を燃やすジロー。
これじゃ対立しないワケがない。
もちろん最後にはポワロが勝つのだけれど、それまでの間、ポワロはジローにバカにされっぱなし。
読んでいるこちらのほうがイライラした。

『スタイルズ荘の怪事件』に次ぐ2番目のポワロものの長編。
なんとなく全体的な雰囲気は似ているかな。
行われた犯行自体は、緻密に計算されたとは、とても言えたものではないが、そこにいろんな要素が加わって、真相を判りにくく仕上げてしまった。
互いに誰かをかばおうとしたりするものだから、余計にだ。

『スタイルズ荘..』と同じように、こちらでも、いろんな恋の物語が展開している。
ポワロもまた、キューピット役を演じているし。
この人は、男女の仲には口を突っ込まずにはいられないらしい。

そして、ポワロの自信家で秘密主義的なところが、すごく現れている作品でもある。
こんなポワロが鼻について嫌いになってしまう方もいらっしゃるのだろう。
クリスティ自身、ポワロから離れようとした時期もあったらしい。
私もいつも意味ありげな事ばかり言うポワロにイライラしながら、やっぱりヘイスティングズと一緒でポワロからは離れられない。
単に犯罪を暴くだけではなく、人の心の動きに敏感で、ちゃんと人間関係も修復してくれるポワロが好きだ。

このクリスティー文庫には、『名探偵ポワロ』シリーズでポワロ吹き替えをなさっている熊倉一雄さんの解説が収録されている。
ポワロを演じる際の苦労話や作品への想いなどが書かれていて、こちらもお薦め。

しかし、ストーリー自体の印象が薄いという点で、少し物足りない。

DVD
名探偵ポワロ[完全版]Vol.26
名探偵ポワロ[完全版]DVD-BOX2

原作に比べると、登場人物が少し削られている。『シンデレラ』も登場してこないし。『シンデレラ』の代わりに『イザベラ』が出てくるのだが、このおかげで、ヘイスティングスの恋がより辛いものになってしまった。

ジローが少しイメージと違ったな。最初に登場した時、判事かと思った。
ジローは、もっと若くて小柄で、ちょこまかと動き回る機敏な人をイメージしていたもんだから。でも、でっぷりしたジローも、威張り散らす感じが強調されていて、いいのかも。
原作とは違ったジローとポワロの賭けも面白い。原作では500フランが賭けの対象だった。こちらでは、ポワロの口髭と、ジローのパイプになっている。どちらも互いのトレードマークを賭けようというのだ。口髭の無いポワロなんて、想像つかないなぁ。確か他の作品にあったな、口髭のないポワロが出てくるものが。

ポワロ役のデヴィッド・スーシェの口髭は付け髭。
名探偵ポワロ[完全版]DVD-BOX2」にはデヴィッド・スーシェのインタビューが収録されている。口髭のない素顔のスーシェが見られて、お得な感じだ。

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2008/09/16

スタイルズ荘の怪事件

スタイルズ荘の怪事件
著者:アガサ・クリスティ
訳者:矢沢聖子
解説:数藤康雄
★★★☆☆

言わずと知れたポワロのデビュー作。
このころのポワロはベルギー警察を引退したばかりの60歳前後。
ヘイスティングズ30歳。
ヘイスティングズの若さゆえの未熟さが、なんともかわいい。

この作品に使われているトリックは、薬剤師としての経験を活かしたクリスティらしいトリック。
富豪の女性が毒殺され、一番怪しいのは年下の夫。
この夫の犯行だと思われるような証言や証拠ばかり集まってくることに、逆に疑問を抱くポワロ。

ここでのポワロの常人を越えた観察力、推理力には舌を巻くばかり。
ヘイスティングズや読者も、ポワロとほとんど同じものを見聞きしているはずなんだけどな。
ま、ポワロには自分が得たヒントを最後まで隠してしまう悪い癖もあるんだ。
だけど、ポワロもいろいろとヘイスティングズを通して読者にヒントを与えてるんだよ。
でも、それが何を意味するのかは、ポワロにしかわからない。

クリスティ初期の作品ということで、なんだか少しぎこちなさも感じる。
ストーリー展開に影響するほどではないのだけれど。
まだまだ素人とプロの間をさまよっている感じなのかな。

クリスティ作品は、1度目より2度目、3度目も楽しめると思う。
結果がわかった後で読み返すと、様々に散りばめられた伏線に気づくのだ。
ポワロの行動の意味、言葉の意味がわかって、初読と違った感動を得られる。

自分が思っている以上にロマンチストで惚れっぽいヘイスティングズ。
この作品でも、やらかしちゃってる。
勘違いから、ある女性にプロポーズしてしまうのだ。
ヘイスティングズの恋物語もホノボノとした雰囲気でいいな。
一種の清涼剤とでもいうべきか。

これ以降の作品でも仲人役を務めることの多いポワロだが、本書でも2組のカップルを作り上げてしまった。
男女の心の動きに敏感なポワロならでは。
なのに未だ独身と思われるのはなぜ?
女性の心を読むことには長けていると思うのだが...。
やはり、その滑稽な容貌と、几帳面過ぎる性格が災いしているのかな。

初読は20年以上前。
今回で何度目の再読になるのかな。
何度呼んでも飽きないクリスティは最高だ。
しかも、読むたびに作品から受けるメッセージが異なる。
自分の成長とともに、受け止め方も違ってくるんだろうな。

しかし、訳者によって「ポワロ」になったり「ポアロ」になったりするが、どちらが正しいのだろう?
私は「ポワロ」だろうと思っているのだが。
「Poirot」と表記されるのであれば、やはり「ポワロ」だよね...。

DVD
名探偵ポワロ[完全版]Vol.11
名探偵ポワロ 完全版 DVD-BOX 1

原作を忠実に映像化した作品。
多少登場人物が削られてはいるが、期待を裏切らない出来だと思う。どこにも不満がない。
それにしてもスーシェのポワロは最高!
これほどまでにクリスティーの原作通りのポワロを演じられる人はいない。スーシェ以外のポワロは見る気がしなくなるほどだ。
初めて観る人にもポワロの秩序好き、清潔好きなキャラクタが判るように、細かな動作ひとつひとつが計算されているよう。ヘイスティングスもイメージ通りだし、ジャップ警部も。
イギリスの田舎の田園風景の美しさも、観る価値あり。

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