012)宮部みゆき

2009/01/03

我らが隣人の犯罪

我らが隣人の犯罪
著者:宮部みゆき
解説:北村薫
★★★★☆

表題作を含む5編の短編集。
どれも読みやすく最後に心地よいオチのある作品ばかりだった。
ただ、作品を読む前に解説を読んではいけない。オチが書かれている部分があるので。

1.我らが隣人の犯罪
主人公の中学生三田村誠の一家が引っ越してきたのは三世帯が入居できるタウンハウスの真ん中の家。両親はコンピュータのソフトウェア開発会社から独立して新会社を作ったばかりで、会社がなかなか軌道に乗らず、ただでさえイライラしているのだが、さらにそのイライラを悪化させる原因が右隣の橋本家の犬、ミリーである。
橋本家の住人は女性1人なのだが、ろくに散歩もさせず家の中に閉じこめてばかりなので、ミリーはストレスのため年がら年中、甲高い声で吠え続けているのだ。それが三田村家に響くこと、響くこと。
三田村誠の母の弟、つまりはおじさんが考えついたのが、このミリーを誘拐しちゃおうということ。ミリーにもっといい飼い主を捜してやろうじゃないかというのだ。
いろんな知恵を絞って、三田村家の兄妹とおじさんのミリー誘拐計画は進むのだが、隣家の意外な犯罪を知ることになり...。

子どもがアイデアを出しながらなんとかミリーを救おうとする姿は、いじらしくもある。自分たちが暴いた犯罪者が誰なのか、いや、そもそもどんな犯罪だったのか。最後の最後まで二転三転するので、読むスピードを止められなかった。
本作品が宮部氏のデビュー作品らしいのだが、それを感じさせないくらいの完成度だと思う。

2.この子誰の子
両親が親戚の結婚式で一晩家をあけることになった夜、1人で留守番していた中学二年生のサトシのもとに、見知らぬ女性が赤ん坊を抱えて訪ねてくる。女性は赤ん坊はサトシの父親の子だと言うが、サトシはそれが嘘だと確信している。ただ、外は激しい雷雨。こんな中に彼女と赤ん坊を放り出すことができずに、家に上げてしまい、挙げ句の果てに一泊させることに。彼女がシャワーを浴びている間に、偶然彼女のバッグから見つけてしまった3枚の写真。サトシの両親の写真と、サトシ自身の写真、そしてサトシとよく似た青年の写真...。
夜が明け、サトシの両親が帰ってこようかという時間が近づくにつれ、落ち着きをなくす女性。とうとう両親には会わずに、赤ん坊とともに家を飛び出してしまった。彼女は何のためにやってきたのか...?

不思議な影を背負った少年サトシ。冒頭から何かあるなぁと臭わせる。
その後の女性との丁々発止のやりとりを見ても、年齢の割にかなり大人っぽい少年なんだろう。
果たして突然やってきた女性は何者だったのか...。最後のオチに少し胸が痛くなるような切なさを感じる作品だった。

3.サボテンの花
権藤教頭は、教師と生徒の間で、悩んでいた。というのも、権藤教頭の学校では、六年生は卒業式の前日に卒業研究発表会を行うのだが、六年一組の生徒たちの研究のテーマが「サボテンの超能力について」。
教頭自身は、子どもたちが真剣にやりたい研究であれば構わないのではないかと思っているのだが、教師はそうは思っていない。あまりにふざけている内容なので、即刻やめさせるようにと教頭に迫る。
悩んだ挙げ句に教頭が出した答えは、子どもたちの好きにさせること、だった。

この5編の短編集の中で、一番心温まるストーリー。
成績ばかりを気にして、型にはめた教育ばかりを進めようとする教師よりも、子どもの心を大事にし、その心を素直に育てようとする教頭の方が、生徒たちは大好きなのだ。この卒業研究は、生徒たちから教頭への最後のプレゼントだった。
あぁ、こんな謎解きミステリーも時にはいいなぁと思わせる作品である。

4.祝・殺人
主人公・彦根和男は、妹の披露宴でエレクトーン奏者から意外なことを聞かされる。刑事である彦根は、アパートの一室で発見された男性のバラバラ殺人事件の捜査に関わっている。エレクトーン奏者の明子は、その被害者である佐竹を知っているというのだ。
二ヶ月ほど前に行われた披露宴で、司会を務めていたのが佐竹であり、その披露宴のエレクトーン奏者を明子が担当していた。佐竹は新郎の親友。明子は、その披露宴の最中におかしなことを見てしまい、それが気になって仕方がないという。それは、祝電が届き、どれを読み上げるかを佐竹がチェックしていたところ、一通の電報を手にしたとたん我を忘れたかのように立ちつくしたという。明子が声をかけると、慌ててその祝電を丸めて隠してしまったらしい。それは誰からの祝電だったのか...。そして、その祝電が佐竹の死とどんな関係があるのか。

この明子という人物。かなり頭の切れるタイプだ。彼女の方を刑事にした方がよいのではないだろうかと思わせるほど。たった一つの手がかりから、TVや雑誌などの情報をもとに、殺人事件の犯人を言い当ててしまった。
こういうふうに書いてしまうと、荒唐無稽な感じがするが、明子と彦根のやりとりをきいていると、水が流れるように自然と真相にたどり着いたように思えてしまう。
本書の中で唯一殺人事件が絡むストーリー。しかもバラバラ殺人とあって、少々陰惨な印象を受けるかな。

5.気分は自殺志願
ミステリー作家である海野は、体力作りも兼ねて、近くの庭園を散歩することを日課にしている。そこでいつも見かける中年の紳士。いまでは目が合うと軽く会釈をする程度だが、ある朝、いきなりその紳士が声をかけてきた。自分を殺してくれないかというのだ。
彼は人気レストランのボーイ長を務めている。が、インフルエンザにかかったのをきっかけに「突発性味覚減退症」という病気になってしまった。そのため、どんな食べ物の匂いも味も、ゴミのようにしか感じない。仕事にも影響が出ている。息子が一流料理人を目指しているため、この病気にかかっていることは誰にも知られたくないらしい。この世界は広いようで狭い。彼ほどのベテランボーイ長が突然仕事を辞めると、妙な噂が立たないとも限らない。息子のため、それは避けたい。なので、自殺に見えないように殺して欲しいという訳。

このボーイ長の思考回路もかなり変わっていて、普通の思考回路を持つ海野とのやりとりが面白い。
実はこのボーイ長、本屋を開くのが夢らしい。それを聞いて、海野は誰もが得をしたと思わせるような奇妙な方法を思いつく。結果、ボーイ長は周りに何の疑問も抱かせずに、念願の本屋の主人におさまった。
いやはや、どこからこんなアイデアがわいて出てくるものやら...。
冒頭のボーイ長と海野のやりとり、後半のレストランのオーナーとボーイ長とのやりとり、どちらも読み応え抜群。

5編が収録されているとはいうものの、ページ数は250弱。結構さらりと読めてしまうものばかりである。
宮部みゆき氏の作品を読んだことはないが興味はあるというかたには、最初の入門書としてお勧めする。

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2008/10/25

レベル7

レベル7(セブン)
著者:宮部みゆき
★★★☆☆

最初に記憶を失った男女が登場。
お互いに、相手が誰かも、自分が誰かもわからない状態の二人。
登場人物二人も、読んでいるこちらも、何から何まで謎だらけ。
それが次第につながり始めていく...。

途中で本を置くことができずに、一気に読み切ってしまう一冊だ。
結構厚めの本だが、それを感じさせないほど。

ただ、「犯人」登場後は、何か肩すかしをくらったような気がした。
「犯人」について、そして「犯行」の背景について詳しく描写しないのは、あえてそうしたのか。
しかし、ちょっと物足りないな...。
途中までが、展開も良くて、勢いがあったものだから、余計にそう思うのかもしれない。

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2008/10/24

理由

理由
著者:宮部みゆき
★★☆☆☆

初めて読んだ宮部みゆき氏の小説。

すでに解決した事件の関係者への取材という形式をとって、事件が描かれていく。
正直言って、とっかかり部分はなかなかなじめなかった。
徐々に小説の中に引き込まれていった感じ。
文庫本で670頁を超える小説だけど、200頁あたりから一気に読み進めた。

しかし、「推理小説」ではないなと思った。
「ミステリー」ではないな、と。
ドキュメンタリーに近いか。

登場人物の描写はとても素晴らしくて、だから小説の世界には、ぐんぐんと引き込まれていった。
人と人との関わり方、いろんな家族のあり方についての描写は、魅力的。
が、一番重要な人物について、その人生の背景を描かなかったのは...?
そのあたり、私には少し物足りなかった。
事件がなぜ起こったのかは、読みとることができないままで、少し消化不良気味だった。

「事件の謎解き」よりも「人・家族のあり方」に重点を置いた小説なんだな、と思った。
「推理小説」だと思いこんで読んだこちらが悪かったかもしれない。

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2008/09/19

長い長い殺人

長い長い殺人
★★★★☆

宮部みゆきの本の中では、一番好きな本。
それほどたくさん読んだわけではないのだが(^^;

物語の語り部である財布には、それぞれの持ち主に合わせたキャラクターが設定されている。
それが違和感なく、しっくりなじんでる感じ。
導入部分の『刑事の財布』が語るのは、ある轢き逃げ事件。
死亡した男性には、多額の保険金がかけられていて、受取人は妻。
動機は充分だ。
だけど、この妻のアリバイは完璧...。
そのあと、次から次へと続く殺人事件を財布が語っていく。

だけど、私が惹かれたのは、殺人事件そのものより、持ち主たちの人間像。
こっちの方がメインテーマかと思えてしまう。
家のローンに苦しむ刑事、大好きな叔母さんの結婚に落ち込む少年、愛する妻の死から立ち直れない探偵、親友との仲がうまくいかなくなった女の子...。
それぞれの持ち主たちが抱える悩みを財布たちが、見事に、客観的に描写している。
誰もが持っていて、いつも持ち主のそばにいるであろう『財布』を語り部にしたアイデアに感服する。

ただ、『推理小説』ではないな。
犯人の出現が突飛すぎる...。
推理小説の醍醐味って、犯人がわかったときの快感だと思う。
この本からは、その快感が得られなかった。
人間を描いた物語としては、とても面白いのだけど。

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