黒い部屋の夫 上下巻
- 市原 恵理
- インフォレスト
- 1260円
書評/
★★★★★
「本が好き!」より、献本いただきました。
まず、本書冒頭の箇所を引用したい。
「私の元夫は、私が妊娠した直後にうつ病になりました。出産や私の入院を経て六年間、家事育児と仕事、夫との闘病に私なりに力を注いだつもりでしたが、力尽きて離婚。私は新しい生活と、やがて新しいパートナーを得、元夫は自殺しました。」
そういう話である。
私は精神疾患をもつ家族の立場に立ったこともあるし、誰にも言えず一人うつ病と闘っていた時期もある。
今は、病院にかかり、うつ病を治療中の立場にある。
患者の家族の気持ちもわからないではなく、うつ病患者本人の気持ちもわからないではない。
今は、本書とは逆に夫に負担をかけながら、家でゴロゴロしている。
夫は出勤の支度をしながら朝食の準備をし、帰宅してからは夕飯の準備をする。もともと家事が得意ではない私は、うつ病というお墨付きを得て、それに甘えながらこの数年間、都合が悪くなると「動けない」と泣き言を言って逃げてきた。
そんな私が本書を読んで、何を語ればいいのだろう。
著者に対して何を伝えればいいのだろう。
突然うつ病になり、しかし自分の好きなことには生き生きと活動し、実家から援助をしてもらっている立場でいながら趣味に大金を費やす夫。にもかかわらず、妻には完璧を求め、仕事も家事も育児も手伝う様子をみせない。
著者は夫から渡されるわずかなお金をやりくりし、食事などの生活費を捻出するのに頭を痛める日々を送る。
うつ病患者は励ましてはいけません。
人はそういう。しかし、自分勝手に甘え放題している夫に対して、それでも励ましてはいけないのか。不満をぶつけてはいけないのか。妻としてどう接すればよいのか。彼女は答えを探して悩み続ける。
そして答えが出ないまま苦しみ続け、結局は離婚という決意をするのである。自分と娘を守るために。
離婚後、元夫は自殺する。
六年間、自分は夫を支え続けた。自分のことを顧みる余裕さえない日々を過ごした。なのに離婚後数ヶ月で元夫を死なせてしまった義父母。二人を恨む気持ちもあったようだ。死に逃げを求めた夫に対する恨みもあった。
死んでしまったら、文句も言えない。何もできない。
何故、死んだのか。誰が悪かったのか。
自分を責めるべきか、いや本人を責めるべきか、いつまで彼女は堂々巡りを続けるのだろう。
死んでしまった彼は、希望通りか否か、彼女の記憶から消えることはないだろう。
彼女が本当に心から笑える日はやってくるのだろうか。
うつ病患者、経験者が読むには、少々辛い本だった。
リアルすぎて、身近すぎて、恐怖さえ覚えた。
ただ、自分で自分の死を選んではいけない。
それは自分のためではなく周りの人間のために。
死んだ人間はそれでジ・エンドだろうけれど、周囲の人間はそうはいかない。重い十字架を背負って歩くようなものなのかもしれない。
それだけは、忘れないようにしたい。
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