★★★★★

2009/10/27

トウシューズはピンクだけ


トウシューズはピンクだけ

Amazonで購入
書評/ミステリ・サスペンス

★★★★☆

アメリカの田舎町で起こった老婦人キャロラインの失踪事件。
愛犬も荷物も車も残し、元バレーダンサーだった彼女は、降る雪が溶けるが如く消えてしまったのだ。
それに不審に思ったのが、妊娠6ヶ月の主婦ルーシー。
重いお腹を抱えながら、あちこち動き回る彼女。
けれど、キャロラインの行方は全く手がかりさえ掴めず、時だけが過ぎていく。

そんなこんなしているうちに、金物屋の主、強欲爺さんが殺されてしまう。
第一発見者は、よりにもよって妊娠中のルーシーだった。
そして、ルーシーの友人が犯人として捕まってしまう。

正義感あふれるルーシーとその仲間たち。
ルーシーも探偵としての溢れる好奇心が抑えきれない。

田舎町に立て続けに起きる事件の数々。
無謀とも思えるルーシーたちの大冒険。
最初はのんびりムードで始まった物語が、中盤を過ぎたあたりから、ドキドキハラハラが強くなっていく。終盤へ向けてのスピード感は素晴らしかった。一気に読み進めずにはいられなかったほどだ。

ミステリとしては、まぁまぁといったところだけれど、傲慢で残虐な男に立ち向かうか弱い女性といった構図があちらこちらに散りばめられていたり、仕事と家庭のどちらを選ぶのが幸せなのだろうかとか、女性として考えさせられるところは多くあった。しかし、女性も侮れない。いざとなったら強いものだ。

ルーシーが4人目の子供を授かる最後のシーンもさわやかで、好感を持てる一冊のミステリだった。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2009/10/23

さまよう刃

さまよう刃

著者:東野圭吾
★★★★★

重い。とにかく重い。
最近の東野作品は、とにかくテーマが重いのだ。

妻を亡くした男の家族は、愛する一人娘のみだった。
その一人娘が、人間として扱われず、ただの肉の塊のように暴行され殺害され、ゴミのように捨てられた。
そのときから、一人の凶暴な殺人者が誕生した。

娘を殺したのは少年たち。
警察に捕まったところで、そう重い刑にはならない。
少年法に守られているとでもいえばいいのか。
それならば、自分の手で、自分たちのしたことを、心の底から後悔させ、あの世へ送ってやりたい。
そう思う被害者の家族・遺族の気持ちもあるだろう。

刑事たちだって人間だ。
被害者の遺族の犯罪も認めるわけにはいかない。
もちろん、少年たちの犯罪も。
だが、彼らに遺族を捕まえることに、心の底から納得している人間がどのくらいいるだろう。

加害者、被害者の遺族、刑事たち。
どの人間の気持ちも、私には「わかる」とは言えない。
ほんの少し、想像できるだけだ。
本当にその立場に立ったものだけが「わかる」と言えるのだろう。

東野氏の作品の中には、過激な性描写の多いものもある。これもその一つだ。
それに嫌悪を感じる読者も中にはいるだろう。
しかし、それなくしては、被害者の父たちの怒りの感情の大きさは表現できなかったのではないかと、今回は思う。

手元に置いてから半年寝かせて読んだ本書は、本当に心を重くする作品だった。
少年法がどうのとか、被害者の遺族の気持ちをもっと裁判に反映させるようにとか、そういった議論になっていくべき話なのかもしれないが、読了したばかりの私には、何も言えない。
何が正しくて、誰がどうすべきだったのか、考えがまとまらないのだ。
ただただ苦しくて、悔しくて、悲しい。
どこに救いを求めるべきだろう。
私はそれを見つけることができない。
少なくとも、今は...。

| | コメント (6) | トラックバック (1)

2009/10/17

ファントム〈下〉

ファントム〈下〉
著者:スーザン・ケイ
訳者:北條元子
★★★★★

何度目かのエリックとの別れを終えた。
何という喪失感。
何度経験しても同じように喪失感を覚える。

下巻は、エリックがペルシャから去り、フランスへ戻るところから始まる。自分の生まれ故郷へと戻るのだ。
そして、今はもう誰も住んでいないだろうと思って訪れた生家には、驚くことに母がまだ住んでいたのだ。

エリックは、自分が出て行ったあと、母は新しい愛を見つけ再婚して、可愛い子供を授かっていると信じていたのだ。それが、たった一人でまだこの家に住んでいたとは...。エリックの想いはどんなものだったのだろう。
しかし、訪ねるのが遅すぎた。
訪ねた日の3日前、母は死んだのだった。

初めて母に触れることが出来る、キスが出来る、そう思って母の亡骸を見たとき、エリックは母が自分に触れるのを嫌がった気持ちがわかった。亡骸は、かつての母のように美しくは無かったのだ。
これで、母との決別を完全に果たしたエリック。
完全に一人で生きていくことができると悟った。

しかし、そこで知った「オペラ座」設計コンテスト!
既に終わったことを知ったエリックの怒りと言ったら!
自分こそがその設計にふさわしいと思っていたのに...。

エリックは諦めなかった。
コンテストで優勝したシャルル・ガルニエに近づき、共同製作することへと話を持って行った。

数々の困難を乗り越えて完成したオペラ座。
その地下室に、やっと自分の最後の居場所を見つけたエリック。
これで、安らかに暮らせるはずだった。
他の人間に顔を見られることもなく、邪魔されることもなく、大好きなオペラは聴き放題。エリックは満足していたはずだ。

しかし、神は冷酷だった。
エリックになおも苦難を与えた。
クリスティーヌだ。
かつて愛して欲しいと願い続けた母によく似た娘。
エリックが認めるほどの美しい声の原石を持つ娘。
彼が心を乱されずにいられようか。

そのあとは、ガストン・ルルーの「オペラ座の怪人」にある通りである。ほとんどは。
苦しいクリスティーヌとエリックとラウルの恋を巡る闘いが始まる。
エリックはファントム(怪人)と呼ばれはしたが、クリスティーヌに対しては最期まで紳士だった。
己を抑えるためにどれだけの忍耐を強いられようとも、紳士であった。

この物語の最後に納得されない読者の方もいらっしゃるだろう。完全なる著者の創作部分だ。
しかし、私はそこにエリックへの救いを見た。

さようなら、エリック。
またページをめくる日まで...。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009/10/16

ファントム〈上〉

ファントム〈上〉
著者:スーザン・ケイ
訳者:北條元子
★★★★★

この本と出逢った瞬間を今でも覚えている。
一目、表紙を見たときから、なぜか惹かれた。
手に取り、1ページを見た途端、自分のものにせずにはいられなかった。運命の出逢いだったのかもしれない。
それほどに、私はこの本に惚れている。
というより、この本の主人公エリック(ファントム・オペラ座の怪人)に惚れているのだ。

ガストン・ルルー原作の「オペラ座の怪人」のファントムの生涯を描いたのが本書である。
エリックはなぜオペラ座に潜み、人を怯えさせ、ファントムと呼ばれるに到ったのか。

エリックは、生まれてから一度も人間からの愛を受けずに育った。
母からでさえも。
原因は、その人間とは思えない醜悪な容貌のため。
誕生日のプレゼントに何が欲しいかと母から聞かれ、5歳の彼がこわごわ言い出したのは、「キスして欲しい」だった。息子がやっとの思いで言い出したその言葉から、母は背を向けた。二度とそんなことを言わないようにと彼に向かって叫びながら...。

ただ、彼にも友達はいたのだ。
彼の容貌も気にせず、無邪気に顔をなめてくれる犬のサシャ。
サシャだけは、エリックの心許せる友。

エリックは本当は敬虔なキリスト教徒だった。
それが教義を捨てたのは、天国へ行けるのは人間だけで、動物は行けないと牧師から言われたとき。
ただ一人の友と共に天国で逢うことが出来ない?!
エリックはそれが許せなかった。
そのときから、彼は神を捨て、悪魔に魂を売ったのかもしれない。

醜い容貌を持つ彼の噂は村中を駆け回り、不吉だと暴力をふるうものも出てきた。現にサシャが殺され、自分もナイフで刺されるに至って、自分がいては母の命さえも危ないと悟ったエリックは、わずか8歳で家を出た。母を守るために。
皮肉にもその日は、母がエリックへの真の愛情を自覚したときだった。
あと1日、エリックが旅立つのが遅ければ...。
あと1日、母が悟るのが早ければ...。

それからジプシーに混じって見せ物にされたり、そこを離れひとりでさすらうごとにエリックは、冷たく強く、そしてある部分でもろく弱い青年へと成長していく。

人間全てを憎むに到るだけの理由がある。
エリックは人間から人間として扱われて来なかった。
たまに容貌を気にせずエリックに好意を持ってくれる人間に出逢っても、いつも最悪の結末がやってくる。
それを学び、ますます人間を憎み蔑むようになる。

残忍な殺人も行うエリック。
それでもなお、惹きつけられずにはいられない。
何度、この本を読み返しただろう。
読み返す度に、切なく哀しくなる。
本をそばに置いているだけで、落ち着かなくなるのだ。

著者もエリックを愛していたのだろう。
だから、エリックは読者である私をも非常に惹きつける。

上巻はペルシャで王室にとどまるところで終わる。
傲慢で我が儘で、残忍な后の欲望を満たすためにペルシャに呼ばれたのだ。
生まれつき正邪の区別がつかないエリック。
殺人自体を厭うことはしない。しかし、意味もなく人に苦しみを与えることを、良しとも思わないはずなのだ。
新しい拷問の道具を作れと言われれば、器用な彼は片手間にでも作ってしまう。本当の彼は美しいものが好きなはずなのに。醜く人間を死に導くものなど作りたくないはずなのに。
自分の意に染まぬ残忍な拷問方法を考え出すようにと、后から命を受ける度に、エリックの心は傷ついていった。それをごまかすために、后に与えられた麻薬に身をゆだねるようになっていく。
自分の心の醜い部分をあらわにさせられることに、エリックは耐えられなくなっていったのだ。

下巻ではさらに新たな苦しみを味わう。
あの運命の少女、クリスティーヌとの出逢いが待っている。
そこへ行くまでの旅も決して楽なものではない。

エリックに救いは訪れないのか...。
神を冒涜するエリックには、神も救いを与えないのか。
ただただ、哀しみと切なさが漂う物語である。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009/09/22

非定型うつ病-パニック障害・社交不安障害

非定型うつ病 パニック障害・社交不安障害 よくわかる最新医学
著者:貝谷久宣
★★★★★

私が3年前に心療内科に通い始めた頃、確かに「うつ病」だったとおもう。不眠が続き、休日になっても何をする気も起きず、ただ不安だけを抱えて、一人でベッドで泣いていた。
その後、薬を処方してもらって治療を始めたのだが、今までただ漫然と薬を飲み続けるだけで、治療に積極的になっていなかったのではなかったかと自分で自分を戒め、今は治療のための本を探しているところである。そのときに見つけた本の中の一冊が本書である。

「うつ病」と「非定型うつ病」との違いを、本書はこう述べている。

うつ病:ずっと気分が落ち込んだまま低空飛行が続く。
非定型うつ病:度を超して気分が浮き沈みする。アップダウンが激しい。

うつ病:物事に興味や関心が無く、喜びを感じることができない。
非定型うつ病:好ましいことや嬉しいことがあると気分が晴れてスッキリする。

うつ病:食欲が無くなり、痩せることが多い。
非定型うつ病:食欲が増し、特に甘いものが欲しくなり、その結果体重が増える。

他にもいろいろ掲載されているが、今の自分と照らし合わせて考えると、非定型うつ病に当てはまるものが多いのである。非定型うつ病と、社交不安障害(2009年から社会不安障害は社交不安障害と言い直されたらしい)を併発しているようだ。

症状の特徴や、それへの対処の仕方、薬の種類、治療への進め方が、比較的大きな文字で書かれており、イラストも多く使われ、非常に読みやすかった。その割に、内容は非常に濃いものだった。素人である私が、なるほどと納得できるまで説明されているということだと思う。

うつ病と非定型うつ病、治療方法として、同じ部分もあれば違う部分もある。なにより、自分がこれだ!と確信できたことが大きい。
次の診療時には、この本を持って行って、主治医と話してみたいと思う。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009/08/29

ジュールさんとの白い一日


ジュールさんとの白い一日

Amazonで購入
書評/海外純文学

★★★★★

本が好き!」から献本いただきました。

結婚してから数十年、子供も独立して、二人っきりで暮らしているジュールさんと妻のアリス。
アリスの一日は、ジュールさんの淹れるコーヒーの香りで目覚めるところから始まる。
いつものようにコーヒーの香りに誘われ、リビングへと向かった彼女を迎えたのは、ソファで座ったまま硬く動かなくなってしまったジュールさんだった。冷たく、二度と動くことのないジュールさん。アリスは、ジュールさんの死をすぐには受け入れられなかった。

そこで、思いついたのは、ジュールさんと二人っきりで、いつものように一日を過ごしてみようということ。今まで言えずにいたこと。たとえばジュールさんの浮気にどれだけ傷ついたか、自分がどんなこそくな手段を使って二人の逢い引きを邪魔したか。そんないろいろなことをジュールさんと話しながらアリスは1日を過ごす。

息子に、あるいは他の誰かにジュールさんの死を早く伝えるべきだったのかもしれない。
けれど、そうするとアリスとジュールさんとの時間が、最後の時間が奪われてしまう。ジュールさんと静かに過ごしたいアリスの気持ちを無視して、段取りよくジュールさんをこの家から連れ出してしまう。ジュールさんの淹れたコーヒーの香りはまだ漂っているのに。

そこへ一人の少年が現れる。
同じアパートに住んでいるダビッドだ。彼は自閉症。いつも決まったことを決まったとおりに行わないと混乱してしまう。彼は、毎朝10時にジュールさんとチェスをすることを日課としていた。
当然この日もやってくる。
アリスはいろいろとごまかしてみせる。しかし彼はジュールさんはもういないのだと気づいてしまう。そして言うのだ。ここにいるのはジュールさんの外側だと。
彼ら自閉症と診断された人々の発する言葉は、時に真実をぐさりと言い当てる。

最初は混乱と静けさの中で混沌としていたアリスは、ダビッドと話すうちに落ち着いてくる。ここにいるのはジュールさんの外側。外側は冷たいけれど、中は温かい。

アリスさんの心の動き、戸惑い、ジュールさんへの愛、ジュールさんからの愛、遠い昔の思い出、いろんな事を通してこの2人のつながりがよくわかる。
アリスのジュールさんとの最後の1日を邪魔しないで!という気持ちも。
アリスにとっては必要な儀式だったのだ。ジュールさんを見送る大切な大切なセレモニーだった。それは、ありきたりのお葬式ではなく、アリスとジュールさんだからこそのセレモニー。
色彩豊かなこの世界から、白い世界へとジュールさんを送っていく大事な通り道なのだ。

夫を失った妻の物語。
こう書いてしまうとただの安っぽいお涙ちょうだいの物語になってしまう。
ジュールさんとアリスの関係はそうではない。
二人で一緒に歩んできた長い旅の終わり近くで、ジュールさんが先に下車してしまったのだ。アリスは、これからもジュールさんとの思い出を胸に抱きながら旅を続けるのだろう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009/07/28

聖ロザリンド

聖ロザリンド
著者:わたなべまさこ
★★★★★

ホラーコミックである。
初めて読んだのは、小学生の頃だっただろうか? それとも中学生だっただろうか?
一度読んだら一晩中は明るくしなければ、眠れないくらいなのに、何故か何度も読んでしまうのである。

主人公は可愛い美少女ロザリンド。
金色の髪、バラ色のほほ、天使のような微笑みが美しい少女。
しかし、彼女には「人の死」というものが理解できないのである。
自分の欲望を満たしたい、あるいは、その人を助けたい、そのために選ぶ手段が殺人なのだ。だが、「人の死」が理解できない彼女には悪いことをしたという罪悪感は全くない。無邪気に殺人を繰り返す。そこがゾッとするところだ。また、子供であるがゆえに殺人の手段が残酷だったりするんだ。
人を助けたいと思うがゆえに、その人を殺したりするんだよ。
たとえば、何かの弾みで「もう死んでしまいたいわ」なんて言ったりすると、殺されちゃう。
あぁ、怖いよ~、ロザリンド。

1970年に描かれたコミックなので、現在では入手は困難。中古であればまだ手にすることは可能である。私も今回、中古本を購入。思ったよりキレイだったのでホッとした。

ホラーコミックの頂点だと思う一冊だ。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2009/06/14

ペットの命を守る


ペットの命を守る―いまからでも遅くない病魔からこう救え!

Amazonで購入
書評/ルポルタージュ

著者:坂本徹也
★★★★★

本書の「はじめに」から引用したいと思う。

****引用開始*****

この本は、解説書でもハウツウ本でもなく、ルポタージュです。

*************

著者がいろんな分野のプロと呼ばれる方々にインタビューしてまとめてはいるけれど、こうしなさいという文はひとつもない。いろんな意見を聞いて、自分の家族である犬・猫に対してどうしてやるのかを決めるのは一緒に暮らしている飼い主自身なのだ。

本書は4つの章からなる。

第1章 あなたのペットは病んでいる?
ペットは人間と言葉を交わせるわけではない。彼らが何らかの身体の異常を感じたとき、必ず飼い主に対してメッセージを送っているはずである。毎日、共に暮らし、身体を撫でるなどコミュニケーションを取っていれば気づく。
観察力が大事。ただ何となく毎日を暮らすわけではなく、今日はどこか痛めていないだろうか、食欲はあるだろうか、そんなことを考えながら接していくことが大切だと、私は思った。
動物病院に連れて行ったときに、適切に症状を医者に伝えることができるだろうか。これは大切なことである。
どんな病気も早期に発見し、適切に対処すれば、障害は最小限に抑えることができるだろう。
ペットの健康に責任を持つ。ペットを家に迎えようとする人は、是非覚えておいていただきたい。

第2章 一体何を食べさせればいいの?
この章は一番、不安を感じながら読み進めた。ドッグフードの質の悪さ。それは散々言われてきたことである。開封して数ヶ月経っても腐敗することのないドライフード。どれだけの人工保存料が入っているのだろう。
手作りの食事を、といっても、そこまで手をかけられないのが現実だ。今は手作りの食事を通信販売している店もある。しかし、費用がかかる。自分の楽しみを削ってそれをまかなえるのであれば、そうする。しかし、生活までも圧迫させるほどの費用はかけられない。多くの飼い主の方が悩んでいるところであろうと思う。
これから先、ペットフードの安全基準が守られるような体制が整うことを祈るのみである。

第3章 ブリーディングが病気をつくる。
私はペットショップ反対派である。犬や猫に値段をつけることには反対だ。ただそれは、金儲け目当ての悪質なブリーダーがいるからという理由からである。
本書を読んで、ブリーディングがいかに難しいことか、沢山の知識が必要なことか、よくわかった。なのに、ただ金儲けのためだけに、なんの知識も無いくせにブリーディングする人間もいる。それが許せないのだ。
ペットショップの小さな部屋に閉じこめられている犬たちを見ると、切なくなる。人の目にさらされるのもかなりのプレッシャーだ。それに生まれてから3ヶ月くらいまでは母犬や兄弟と一緒にいて、今後生きていくために必要な知識を学ぶ時期なのだ。それなのに、2ヶ月足らずの子犬を販売したりしている。この子たちは上手く犬として生きていけるのだろうか...。
欧米ではペットショップで犬や猫を買うことはできないそうである。ブリーダーから飼い主として認められて初めて家族を迎えることができるのだ。日本は愛玩動物に対する接し方については、かなりの後進国だ。

第4章 問題行動はペットのSOS
ムダ吠え、咬みつく、トイレを覚えない、そんな問題行動。ただ躾ができていないだけではない場合があると言うことを初めて知った。
犬もうつ病になることがあるらしい。本来ならば母犬や兄弟と一緒にいるべきだった時期に無理矢理引き離された犬。そして、ただ小さな箱の中で人目にさらされた日々を送った犬。心に病を持っても不思議ではないと思う。
正しく犬を観察し、必要ならば獣医師やカウンセラー等に相談すること。誤った認識で悪癖を治そうとすると、さらにひどい結果になることもあるらしいので、注意が必要だ。

今、私は1匹の犬と一緒に暮らしている。この子は老犬で、あと数年を待たずして逝ってしまうだろう。
その後、また動物を迎えることは恐らくないと思う。一緒に暮らして、その子を100%幸せにしてあげる自信がないのだ。これまで天国に見送った犬たちも、本当に私のところにきて幸せだったのだろうかと、今でも気になる。
今から動物を迎えようとしている方々には、いろいろと勉強した上で迎えて欲しいと思う。
この本はそのヒントをたくさん与えてくれるだろう。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009/05/27

不安のしずめ方

不安のしずめ方―人生に疲れきる前に読む心理学
著者:加藤諦造
★★★★★

実は、まだ本書を読了していない。
ノートにメモしながら読んでいるので、時間がかかってしまい、読了までに数週間かかりそうだ。
しかし、失礼だとは思いながらも、途中経過として感想UPしてみたいと思う。

本書は「不安」がどこから来るのか、どうして「不安」になるのかを解明するのに重きをおいたものだという気がする。
読んでいるうちに、言葉がゆっくりと心の中に染みこんでいき、自分を納得させながら読み進めることができる。
読みながら心が落ち着いていくのも不思議だ。
私は経験はないのだけれど、教会で神父さんのお話を聞いている時やお寺でお坊さんの説法を聞いているときには、こんな気持ちになるのだろうか。

難しい話は一切なく、大事な言葉は繰り返し説明してくれており、本当に心の安定剤になる本だと思う。
興味のある方には、是非お薦めしたい。

| | コメント (4) | トラックバック (1)

2009/05/05

それってホントに「うつ」?

それってホントに「うつ」? ── 間違いだらけの企業の「職場うつ」対策
著者:吉野聡
★★★★★

最近この手の本に手が伸びることが多い。
何故かというと、自分の症状に自信がないからだ。
確かに最初は「うつ」だった。
いなくなってしまいたいなぁと思うことも度々あった。
今でもたまに、そう思うこともある。
でも、休職期間が長くなればなるほど、だんだんと職場に行くのが嫌なだけなんじゃないかなぁと思うことも多くなったのだ。つまり、家から出たくないから「うつ」という理由を利用しているんじゃないかなぁと。
家でも動くことがおっくうなんだけど、ただの怠け者じゃんと思うこともしばしば...。
なので、自分の本当の症状を見極めたい、自分で自分を客観的に見て、どうなのかを知って安心したい。
というわけで、最近多くなりつつあるという「現代型うつ病」に関する本に手が伸びるのだ。

この本は役に立つ。ホントに役に立つ。
「うつ病」って、全部が全部、ひとくくりにできるものじゃないんだなぁと思った。
本当は「パーソナリティ障害」や「統合失調症」である人も、うつと判断されて、間違った治療行為を受けていることも、ままあるらしい。
会社には行けないけど、海外旅行には行けるといったような「現代型うつ病」。
これもただの怠け者ではなく、新たな心の障害ではあるとのこと。
うつ病にもいろんなタイプがいるのだ。
そのタイプごとに、対処方法は異なる。
「頑張れ!」って言っちゃいけない場合もあれば、「頑張れ!」って言わなきゃいけない場合もある。

そんな新しいタイプの「心の病気」の出現に、今の社会がまだついてきていない。
職場の担当者、上司が、まだ理解できていない。それってすごく危険なことだ。うつのタイプによって、対処方法が異なるわけで、それを誤ってしまうと、余計ひどい結果を招きかねない。

各職場に一冊、常備してみてはいかがでしょう?
空き時間にサクッと読めてしまう文体も好印象。
読んで損する本ではないと思う。

追記:
うつは「心の風邪」だよってよく言う。
でも、実際は風邪どころじゃなくて「肺炎」みたいなもんだ。
誰でもなる可能性はあるし、必ず治るということを言いたいから「心の風邪」という表現を使うんだろうけどねぇ、でも風邪もこじらすと危険かぁ....。
早期発見、早期治療!これが大切なんだね^^

| | コメント (7) | トラックバック (0)

2009/04/26

だれも知らない小さな国

だれも知らない小さな国
コロボックル物語(1)
著者:佐藤さとる
★★★★★

「コロボックル」という言葉をご存じだろうか?
アイヌの伝説に出てくる小人のことだ。

実家に残っている自分の荷物を少し整理しようとしたとき、とても懐かしい本に出逢った。
コロボックル物語。
初読は中学生の頃だっただろうか。そうすると四半世紀以上ぶりに再会した訳だ。

この本では「こぼしさま」と呼ばれていた小人が登場する。
主人公の男の子が初めて出逢ったのは、小学三年生の頃。
家の近所の小山に1人で探検に出かけたのだ。
その山からの帰り道、トマト売りのおばあさんの話を聞いた。
昔からこの山は「鬼門山」と呼ばれていて、あまり人が近づかない場所だったそうだ。誰かが山を荒そうとすると、必ず災難が降りかかる。
「こぼしさま」が、悪い人間が近づかないように守っているのだという。

その後、ちょくちょく小山に遊びに行っていた少年は、ある日、自分より少し年下の少女と出逢う。彼女は川をジッと見つめているところだった。そこへ急に少年が声をかけたものだから、ビックリしてしまい、片方の靴を川に流してしまった。泣きべそをかいている少女のために、川に流れる靴を追いかけた少年は、不思議なものを見てしまう。靴の中に小さな小さな人間が3人乗っていたのだ!
これこそトマト売りのおばあさんが言っていた「こぼしさま」に違いない!
少年は確信する。この山にはまだこぼしさまがいるんだ、と。
靴を拾って元の場所に戻ると、少女はいなくなっていた。少年の手の中には靴だけが残った。

それから少年は遠くの町に引っ越すことになり、戦争が起きたりして、大人になったときには、こぼしさまのことを忘れてしまっていた。
久しぶりにむかし住んでいた町を訪れたとき、ふと小山のことを思い出したのだ。そして、この小山を自分のものにしたいと思うようになった。
その頃から、なんだかおかしな現象が起こり始めた。
目の前をスッと影が通り過ぎるのだ。1回だけでなく何度も。
これはコロボックルのテストだった。
信用できる人間かどうか、コロボックルがチェックしていたのだ。

テストに合格した彼は、正式にコロボックル達と挨拶を交わし、コロボックルの国を作ろうと決める。コロボックルが安心して暮らせる国を。
そうしている間に、昔、靴を流した少女と偶然再会した。
彼女もコロボックルのテストに合格し、二人してコロボックルと相談しながら、いろいろ準備をしていくのだ。

初めてコロボックルの本に出逢った頃、すでに中学生ではあったけれど、コロボックルのことを信じていた。決して口には出さなかったけれど。いつか自分の目の前にも現れてくれないかなぁと、周りを見回したりしたものだ。
本音を言えば、今だって信じてないわけではない。
もしかしたら、沖縄にだっているかもしれない。

だけど高校生になるころには、「誰か明日の朝までにこの宿題を終わらせてくれないかなぁ」とか「学校に行っている間に部屋を片づけておいてくれないかなぁ」などという「フトドキモノ」になってしまっていたので、もしコロボックルがいたとしても、私はテストに合格しなかっただろう(苦笑)。

昔々から伝わる小人物語。
読んでいて、懐かしさで胸がいっぱいになった。
何もしないから、一度くらい逢ってみたいなぁ...。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2009/02/27

シンデレラ迷宮

シンデレラ迷宮
著者:氷室冴子
★★★★★

目が覚めるといきなり変な世界に迷い込んだ利根(リネ)。
そして、周りにいたのは、踊り子のオディール、暁の国の姫君ゼランディーヌ、ソーンフィールドの奥方、そして王妃。
やっかいなことにリネには、自分が「リネ」であるということ以外に記憶が全くなかった。
心優しい4人の女性は、「では、記憶が戻るまで交代で面倒を見ることにしましょう」と決めてしまう。

リネが最初に向かったのは王妃のお城。
実は王妃の継子に当たる姫が熱を出していたところをわざわざ抜け出してやってきてくれたのだという。
急いで城に戻ると、そこには国王の姿が。
「もう少し、姫に優しくできないか」と国王は王妃を責める。
王妃は姫のことが大好きで、とてもとても大事に思っているのに、何故か城の中の全員から憎まれる存在になってしまっている。そのことに憤慨するリネ。しかし、もっと大切なことを聞いてしまった。
姫の名は「白雪姫」だというのだ!
ということは、王妃=いじわるな継母ということになってしまうのだが、目の前の王妃はそうは見えない。
何がみんなを誤解させているのか、何故王妃は味方もないまま独り寂しく暮らさなければならないのか...。
その謎が解けたとたん、リネの記憶の一部がよみがえる。
それは、とても寂しくて苦しい記憶だった。思い出したくなくて、心の奥底に沈めていた記憶だった。

その後、オディール、暁の国、ソーンフィールドと移っていくリネだが、行く先々で眠らせていた記憶がよみがえっていった。
この不思議な世界はリネが作った世界。
誰も幸せになれないと、幸せを否定した世界。
しかし、それではダメなのだと気づいて、最後にリネは一筋の明かりに向かって進んでいくのだ。

初読は....、いつだっただろう。
中学生の頃だから、二十数年前か。
氷室冴子氏の、なぎさくんシリーズも、ジャパネスクシリーズもいいけれど、私はやっぱり一番シンデレラ迷宮のシリーズが好きかもしれない。
いろんな悲しみ、寂しさを背負った女の子たちが、なんとかならないかと努力していくお話。
みんなが知っている童話の主人公...だけではなく、敵役にスポットをあてて、知っているはずの童話を初めて読むような気分にさせてくれる。

氷室冴子氏の作品に出てくる女の子は、一見か弱そうでも、実は強い!
いろんな小さなことで傷つくけれど、最後にはそれを乗り越えようと頑張るんだ。

コバルト・シリーズって、中高生向けの小説だよねぇ。
それが、今読んでみても満足できるってスゴイと思う。
氷室冴子、バンザイ!!

| | コメント (5) | トラックバック (1)

2009/02/24

PMSとうまくつきあう

PMS(月経前症候群)とうまくつきあう
著者:丸本百合子
★★★★★

数年前からうつ病を患い、最近少し良くなってきたところではあるけれど、時々、気分的に落ち込むし、身体もだるいし、異常に眠くなるし、やはりいつもと違う身体になってしまう。うつがひどくなったのかなぁと、何が原因なんだろうかと悩んだけれど、これが月経前症候群、PMSというらしいことを最近知ったのだ。
考えてみると、その十年以上前から、月経前には特別な症状が精神的・身体的に現れていたものだ。それに気づくまでは、イライラしたりしていたけれど、「あぁ、こういうサイクルで気分の波が出てくるんだな」と理解したときには、イライラも半減した。

この本には、女性の身体の仕組み、サイクルなどが詳しく説明されており、それに対処する方法などもキチンと書かれている。

これは、女性だけではなく、できるならば男性にも読んでいただきたいと思う。ま、買ってまで読んでくださいとはいわないけれど、もし機会があるなら是非読んでみてほしい。何故、女性が突然体調が悪くなるのか、機嫌が悪くなるのかの謎が解けるかもしれない。

理由がわからず精神的・身体的な不調が続くとイライラも倍増するが、仕組みを知ってしまえば、上手くコントロールできるのでないだろうか。

女性には、本当に一読をお勧めする。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2008/12/27

家族なのに

家族なのに
著者:なまこ
★★★★★

さきほど、あるブログで知ったお話です。とてもとても哀しいお話で、今日は眠れなくなるかもしれません...。
ウチの子たちには、絶対こんな目に遭わさないのに...。
こんな気持ちを味わう子たちが少しでも減っていきますように...。
本も販売されているのですが、ネット上でも読むことができます。

家族なのに

パパとママと一緒に楽しく暮らしていたワンコが、いつの間にか見放され、ひとりぼっちになって、天国に逝ってしまうお話です。
哀しいと寂しいと泣いて、なぜ自分がひとりぼっちなのか理解できないまま天国に逝ってしまう子たちの気持ちを考えると、やり切れなくなります。
お願いします。自分の家族として迎えた子たちは、最後まで家族でいてあげてください。
お願いします。ホントにホントに、お願いします。
イヌもネコも、自分の家族が大好きなんです。それは見捨てられた後も変わらないんです。自分がおいていかれたのは、何か悪いことをしたせいなんだろうかと考えながら死を迎えるんです。最期の最期まで、自分と家族との楽しかった日々を忘れないんです。いつ迎えに来てくれるんだろうかと、ずっと待っています。
これは人間からみた感傷にすぎなのかもしれないけれど、保健所にいる動物たちはみんな「哀しい眼」をしています。決して「怒っている眼」ではないのです。
「哀しい眼」をした子を増やさないでください。本当に心から、心から、お願いします。

基本的に、こういうお話は避けてしまいます。知ってしまうと、何もできない自分が悔しくて、どうしようもなく落ち込むから。
ドキュメンタリーやドラマや映画で、動物を主人公にしたものも、基本的に観ません。健気な(人間が勝手にそう見ているだけなのかもしれないけれど)動物たちの気持ちに、人間が100%応えきれているのかなと、疑問を消化できなくなるので。
でも、現実は現実として、そこにあるわけで、無視したところで無くなるものでもないんですよね。だけど、受け入れたくない自分もいて、どうしたらいいのかわからなくなる。

とにかく、自分が家族として迎えた命は、最期まで痛い思いも怖い思いもさせずに全うさせたい。今の私ができることは、それくらいしかない。あとは、こういう場所で呼びかけていくくらいかな。
なんて、無力なんだろう...。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2008/12/20

なぎさボーイ

なぎさボーイ
著者:氷室冴子
★★★★★

中学生の頃、初めて手にしたコバルト文庫&氷室冴子氏の小説。当時は、登場人物と同年代で、とても読むのが楽しかったシリーズだ。
あれから25年近く、約四半世紀が過ぎた今、改めて読み返してみた。もっと、小っ恥ずかしくなるような、青臭いような読感かなと思っていたのだが、意外と素直に楽しめたのに驚いた。

登場人物はみんな中学3年生。
主人公は雨城なぎさ。女の子のような名前と、女の子のようにかわいらしい容姿で、小さな頃から屈辱感を味わってきた男の子である。本人は、なにかというと「男たるもの云々」とすぐ口にするほど、「男」にこだわっている。
彼と中学1年の時に同じクラスになり、顔を見ると喧嘩が始まってしまう女の子が原田多恵子。お節介焼きで、正義感が強い。そして、実はなぎさくんに恋心を抱いているのだ。
なぎさくんの幼なじみで日本舞踊の家元の家に生まれたプレイボーイの森北里。いつも冷静な北里くんは、いつもなぎさくんをからかっては楽しんでいる、ちょっと大人な雰囲気が漂う男の子。
この北里くんの従姉妹が麻生野枝。彼女もちょっと変わった女の子だ。人見知りで、クールな性格。彼女と考えるより先に行動してしまう多恵子が親友というのだから不思議である。
最後に、上邑三四郎。なぎさくんと多恵子の中学1年の時の同級生。気が弱くて、勉強もスポーツもまるでダメ。いじめられっ子の典型だ。1年の頃から、なぎさくんと多恵子が父母のように守ってきた男の子。

この5人が同じ高校を受けるという理由から、何となくグループっぽくなり、一緒に怒ったり、笑ったり、悩んだりするわけだ。

で、メインテーマは、なぎさくんと多恵子のラブ・ストーリー。
中学3年から高校生まで、あるときは三角関係になり、はたまたあるときには四角関係になったりで、お互いがお互いを好きなのに、「男たるもの軽薄にちゃらちゃらと恋の告白なんてもんはするべきじゃない。男子一生の伴侶を得るとき、その伴侶を残して先に死ぬとき。男が好いた惚れたと言っていいのは、このふたつのときだけだ」というなぎさくんの素直になれない不器用な性格ゆえに、赤い糸はこんがらがっていく。

携帯電話も、「ストーカー」という言葉も無かったあの時代の恋物語。現代の中学生に、読んで感想を聞かせてもらいたいなと思う。共感できるかな。それとも、わかんないかな。

振り返ってみると、中学当時は多恵子にも野枝にもほかのどの女の子にも自分を重ねることはなく、ただ、なぎさくんになりたいと思っていたように記憶している。なぎさくんを好きになるわけではなく、なぎさくん自身になりたかったのだ。
ま、ただ単に学ランに憧れていただけかもしれないけれど。その憧れも7つ下の弟が学ランを着るようになった頃には、あとかたもなく消え去っていた。

大人になってから読み返しても楽しめてしまうとは、氷室冴子氏って、やはりスゴイ方。
今年、亡くなったと知ったときには、ショックだった。
まだ若かったのに。
改めて、ご冥福を心からお祈りいたします...。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008/11/29

税金を払う人使う人

税金を払う人使う人―加藤寛・中村うさぎの激辛問答
著者:加藤寛、中村うさぎ
★★★★★

税務に携わる仕事に就いて、十数年が経つ。それだけに、「税」とつくものには多少は他の人よりも興味を持っていると思う(もともと経済音痴ではあるが...)。

税金というと、みな「盗られる」という。それを私は「納める」のですよと言ってきた。
「盗られる」も「納める」も、その金額に見合った何かを求めていない言葉だ。
税金というのは、行政サービスを国民に提供するために集めているお金である。よって、その額に見合った対価を納税者は求めるべきなのだと、本書を読んでそう思った。
自分が支払った税金が、どのように運用され、活用されているのか、それに対しての国民の意識が、以前よりは高まってきた昨今。「税金」とは本来なんなのか、どのように集められ、使われるべきなのか、基礎の部分をとてもわかりやすく説明してくれる本である。

税金の素人の代表である「中村うさぎ」氏に、税金の玄人「加藤寛(元政府税調会長)」氏が、優しく丁寧に「税金」について解説している本書。
私も税金については半分素人、半分玄人である(半分以上「素人」かもしれないが(汗))。それでも、新しい見方を教わった気分である。
「税金」の基礎知識のほかに、現在の日本財政の危機的状況、それをどのように立て直していくべきなのかというところまで、本当に易しい言葉で説明されている。

「税法」というのは、非常にわかりにくい条文ばかりである。長ったらしい条文の中にカッコがあり、その中にまたカッコがあり、その中にまた...というのが続いて、最後に述語にたどり着く。述語にたどり着いた頃には、主語は何だったんだっけ?と、もう一回最初っから読み直さなければならない。
また、本法で決められたことが、附則では全く違ったことになっていたり、規則ではまたおかしなことをいっていたり、本当に難解。
国民にカラクリをばらしたくないために、わざと難しくしているのではないかと思うくらいだ。
難しいことを難しく説明するのは、簡単なこと。誰にでもできる。
難しいことを易しく説明することが大切なのである。
法律を作るのは結構だが、その内容を国民に易しく伝えてほしいと思う。

税金の無駄遣いがマスコミで報道されるたびに、国民のみなさんから強い風当たりを受けるのは、現場で働く税務職員なのである。悪いことをしたり、無駄遣いをしたりしている人たちではない。
税務職員も納税者の一人。納める苦労、徴収する苦労を知っているだけに、ムダに税金が使われるのを見ているのは、本当に腹が立つ。

しかし、官僚はともかく、法律を作る機関である立法府の議員たちを選出しているのは、主権を持っている「国民」なのだ。税金の集め方、使い方について、意見を反映させることのできる行為が「選挙」なのである。
国会議員だけではなく、地方自治体の議員についても同じことが言える。
一般の公務員は、立法府で作成された法律等に従って、業務を行っていく。
税金の徴収に訪れた職員に意見(文句?)を言う前に考えて欲しい。法律を作ったのは、皆さんが選んだ議員で構成される議会なのだということを。「選挙(参政権)」という貴重な権利をムダにしないで欲しい。
自分たちの貴重な「税金」を安心して任せられる人を、選ぶ目を持たなければならない。

この本は2001年に発行されたものであるので、多少現状とは違う部分があるが、それでも基礎を学ぶのに不足のない本である。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/11/19

葬儀を終えて

葬儀を終えて
著者:アガサ・クリスティ
翻訳:加島祥造
解説:折原一
★★★★★

裕福な一家の当主リチャードが死亡し、その葬儀の後で無邪気な末妹コーラが言い出す。
「あら、リチャードは殺されたんじゃなかったの?」と。
その翌日、彼女が惨殺死体で発見される...。
当然リチャードの死が疑われることになる。
病死と診断されていた彼は、本当に「病死」だったのか?
コーラは何かを知っていたために殺されたのか?

殺人のトリックや巧妙な伏線やミスディレクション、どれも素晴らしい作品なのだが、一番の魅力は何と言っても犯人のキャラクターにあると思う。私好みの犯人だ。
自分の欲望のためなら他人の命など簡単に消してしまえるある種の無邪気さを持った犯人には、背筋が寒くなるような怖さを感じる。夢見る中で行われた冷酷な犯行。一度読んだら忘れられない殺人犯だ。

スーシェ主演の「名探偵ポワロ」シリーズで本作品が映像化された。「名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 2」に収録されている。
トリックがトリックだけに映像化は非常に難しいように思えたが、こちらも素晴らしい作品だった(ネタバレにはなっていないと思うが、未読の方の興趣を削いでしまったとしたら、お許しいただきたい)。
再度鑑賞した後に、感想をアップしたい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/11/17

オトナ語の謎。

オトナ語の謎。
著者:ほぼ日刊イトイ新聞
監修:糸井重里
★★★★★
※私が購入したのは単行本ですが、上記は新潮文庫版へとリンクします。

ほぼ日刊イトイ新聞発のものは、「言いまつがい」なども好きだが、まずはこちらからご紹介。
「オトナ語」というのは、いわゆる「業界用語」なんかも含んでいたりして、サラリーマン(特に営業関係かな?)特有の言葉遣いを指す言葉のようだ。
たとえば、最初の一つ目は次のような言葉。

***以下引用***

『お世話になっております』
オトナの世界はこのひと言より始まる。いわば「お世話になっております」はオトナの世界における万物の始まりといっていい。使いかたの基礎を述べるとすると、ほんとうにお世話になっているかどうかは関係がない。
とにかく、開口一番、あっという間にそう述べるべきだ。
「お世話になっております」
そう、たとえあなたがまるでお世話になっていなくても。
「お世話になっております」
むしろオレがおまえをお世話しているのだと思っても。
「お世話になっております」
あなたと私は絶対に初対面ではあるけれど。
「お世話になっております」
たとえ先方の電話に出たのがベッカムだとしても。
「お世話になっております」
たとえメールを送る相手がローマ法王だったとしても。
「お世話になっております!」

***引用終了***

こんな感じで始まる。
確かに職場で電話に出ると、たとえどこの誰であっても「お世話になっております」と言ってしまうかも...。
以下こんな感じで、「よろしくお願いいたします」「おはようございます」「お疲れさまです」と続いていくのだ。
オトナ語をただ普通に並べただけじゃなく、うまいツッコミ解説が入っているのも◎。

ところどころにあるコラムも面白い。
「男女の別れをオトナ語でアレンジ」などでは、

***以下引用***

『別れの提案』

「いつもお世話になっております。えー、さっそくではございますが今回は、お別れのご提案でございます。といいますのも、先日ワタクシ夏期休暇を利用いたしまして郷里に戻ってまいりました。その際にですね、今年のゴールデンウィークの帰省のときについナニした同窓生、え、こちら仮にA子さんといたしましょう。彼女からですね、そのー、ジュニアができた、というご報告を受けまして。もう時期が時期だけに物理的に待ったナシとのことで、きんきんに身辺整理し、その結果をフィードバックするようにというのが先方さんのご要望でして...。ここはひとつ泣いてくれませんか」

***引用終了***
(長文引用、失礼!)

この返事もまたオトナ語でアレンジされているのだが、本当に「コミカル」という言葉がピッタリである。
昔話のオトナ語アレンジもお薦め。

日本語なんだか外国語なんだか不明な変な言葉。それが「オトナ語」。
単語、単語の意味はわかるけど、結局何が言いたいんだか具体的にはわからない言葉。それが「オトナ語」。
ツボにはまるといきなり大爆笑!になりかねないので、人前で読むのは避けた方がよいのではないかと思う。

なるはやで次の記事サクッと仕上げちゃいますんで、もしアレなら、明日(ミョウニチ)も当ブログをご高覧くださいますと、こちらといたしましてもモチベーションが上がって、毎日更新するということに特化したブログをご提供できますので、ウイン・ウインの状況でお互いハッピーな感じになるかと存じますが...、どうですかね?

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2008/11/15

メーラーだえもんさんへの手紙

メーラーだえもんさんへの手紙
著者:メーラだえもん
★★★★★

メールアドレスを間違えて送信すると、相手が見つからず、メールサーバーから「このアドレス間違っていませんか? もう一度確認してください」といった内容のメールが返信されてくる。
が、これが英語で送られてくるものだから、いろんな勘違いが起きるのだ。

この「アドレス間違ってますよ~」というメールに返信する人々がいるらしく、その返信されてきたメールを集めたのが本書、「メーラーだえもん(MAILER-DAEMON)さんへの手紙」である。

「あなた誰なの?何度も何度もむかつくんですけど」「外人からメールがきたよ」「良かったらメル友になりませんか」など、「おい、おい、おい」と突っ込みたくなるものが満載。
この勘違い返信に対して、だえもんさんが一言メッセージを添えているのだが、それまた笑える。
電車の中など、他人のいる場所で読むと危険かも。突然の笑いに襲われる可能性が高い。

3年前の本なので、今では勘違いして返信する人はそんなにいないかもしれない。
それとも、携帯メールなどの利用層が広がっているから、増えているのかな。

こちらがネタもとになっているらしいので、ご紹介。
メーラーだえもんさんへのお手紙

| | コメント (3) | トラックバック (1)

2008/11/12

満潮に乗って

満潮に乗って
著者:アガサ・クリスティ
訳者:恩地三保子
解説:中川右介
★★★★★

前日に引き続き、魅力的な女性が登場する作品。
気が強くて負けず嫌いなリン・マーチモント。
か弱くて無垢な心を持った女性ロザリーン・クロード。
2人とも非常に個性のある魅力的な女性だ。
私はリンのほうに、より好意が持てる。

戦地から田舎に戻ってきたばかりのリン・マーチモント。戦争が終わって何もかもが高価になる中、日々の食事の準備にさえも心を悩ませる母を憐れに思いながらも、裕福だった叔父の遺産を狙おうとする母や親族に嫌悪感を抱く。婚約者であるローリーに対しても...。

リンの婚約者であるローリーは戦争中は出征せず、ずっと田舎にとどまっていた。戦地での日々を経験したリンからみれば、彼は少々退屈に見えてしまう。
彼と結婚し退屈な一生を送ることに迷いを感じているとき、見るからに危険な香りのする男と出逢った。裕福だった叔父と結婚したばかりの若い未亡人ロザリーンの兄、デイヴィッド。叔父の遺産を奪った相手になるわけだ。
最初は敵対心を抱くが、徐々にデイヴィッドに惹かれていくリン。それに気付き、ローリーは焦り始める。

デイヴィッドとローリー、リンとロザリーン。
この4人の恋物語としても非常に面白い作品だが、もちろんミステリとしても読み応えのある一冊でもある。
このミステリでは、3つの死体が出てくる。
果たして殺人なのか、自殺なのか、はたまた事故死なのか..。それすらよくわからない。
最後の最後に1人の人間が本性をあらわす。それが少し突拍子ないと言えなくもないのが少々難点だが、驚かされることには間違いはない。
このミステリのポイントも「動機」。
一見単純な犯行に見えるけれど、絡まった糸のように様々な人間の思惑が入り組んで、なかなかほどけてはくれない。

この物語で一番印象に残ったのは、戦争についてのリンの言葉だった。

***以下引用***

子供のころからいつも彼女は、はっきりした頭脳の持主で、ものごとを明快に裁ける人間だった。自分の望んでいることと望まないことをつねにはっきりできる人間だった。いままでは、あなたまかせなふらふらした動きかたをただの一度もしたことがないのだ。
そうだ、それなのだ。そのふらふらした動きなのだ!
あなたまかせの、はっきりした目的のない生き方。それが彼女の故郷に帰ってからの毎日だった。
あの戦場の日々への郷愁が波のようにリンの心を襲った。各自の責任がはっきり規定され、生活は一糸みだれぬ計画にしたがってはこばれ、そして個人の裁断などというものが必要とされなかった日々がリンにはなつかしかった。
だが、そう考えてゆくうちに、リンは急にぞっとしてきた。みんなこんなことを考えているのだろうか、心ひそかにみんなが願っているのはこんなことなのだろうか? これがつまり戦争が人々の心に植えつけていったものだろうか?
戦争の本当の怖ろしさは、けっして肉体的なものではなかった。海にかくれた水雷、そらからの爆弾、荒野を走る車にうちこまれるライフル弾のうなり、そんなものは、肉体だけの記憶でしかないのだ。本当に怖ろしいのは、考えることをやめればずっと楽に生きていかれるということを知る、精神の記憶なのだ。
現在のリン・マーチモントは、入隊したときの頭脳明晰な決断力に富んだ娘ではなくなっている。彼女の頭脳は、職場では専門化され、整然と分類された範疇の一つにはめこまれてしまっていた。そしていま、ふたたび自分自身の、そして自分の生活の主人に戻ったリンは、自分の個人的な問題を把握することから顔をそむけているような心のあり方にぎょっとさせられている。

***引用終了***

戦後だけじゃなく、現代でも当てはまりそうな感じがする。マニュアル化された世界に慣れれば慣れるほど、そしてそれに慣れることが早い人ほど、同じことを感じるのかもしれない。
決して「マニュアル」自体を否定するわけではないのだが...。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/11/11

ホロー荘の殺人

ホロー荘の殺人
著者:アガサ・クリスティ
訳者:中村能三
解説:はやみねかおる
★★★★★

ポワロものの一つだが、この作品の中でポワロはそれほど重要な役割は果たしてない。クリスティが語っているように、ポワロはいなくてもよかったように思う。

この物語にはいろいろなタイプの女性が登場。
その類いまれなる天真爛漫さで周囲を困惑させるにもかかわらず、人を惹きつけずにいないアンカテル夫人。
誰よりも強くて、優しくて、知性にあふれるヘンリエッタ。
報われない愛をいつまでも大事に暖め続けて、自分の道をひたむきに歩いていくミッジ。
ただひたすら夫と子供のことのみに自分の人生を捧げ、その愛にすがって生きているガーダ。
常に人に注目されることを望み、全ての男性が自分にはひざまずくものだと信じているヴェロニカ。

ガーダの夫ジョンの元恋人がヴェロニカ。今の恋人がヘンリエッタ。ミッジはエドワードを愛しているが、エドワードはヘンリエッタしか見えていない。
それぞれの愛が絡み合っている中、悲劇が起こる。ジョンが射殺されるのだ。
動機は...? 嫉妬? それとも...。

ミステリとしても、恋愛小説としても、とても読み応えのある作品だ。登場する女性たちがみんな魅力的。一度読んだら忘れられない人ばかりだ。
それに比べると男性陣は、ちょっと不満足かな。それでも彼女たちにとっては魅力ある男たちなんだろうけれど。
私の評価は、魅力的な女性が登場する作品だと甘くなる傾向にあるな。

最後のシーン。
悲しみに埋もれてしまいたいと願いながらも、それができないある女性の言葉で終わる。常に冷静な第三者が自分の中に存在していることに気づいてしまう彼女。一番悲しい女性かもしれない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/11/10

五匹の子豚

五匹の子豚
著者:アガサ・クリスティ
訳者:桑原千恵子
解説:千街晶之
★★★★★

16年前に裁判も終了し、一応の解決をみた殺人事件について再調査して欲しいという依頼を受けたポワロ。
依頼人は、カーラ・ルマルション。毒殺されたのはカーラの父。犯人として裁かれたのはカーラの母だった。夫殺しの犯人として獄中死した母は、無実だったのだとカーラは信じている。

事件の関係者は5人。
殺害されたカーラの父アミアスの親友、メレディス。
アミアスを敬愛していたメレディスの弟、フィリップ。
カーラの母カロリンの異父妹、アンジェラ。
アンジェラの家庭教師、セシリア。
そして、アミアスの愛人、エルサ。

まず、ポワロはこの5人を訪ね、この事件について手記を書いて欲しいと依頼する。既に解決した事件を蒸し返して何の意味があるのかと、誰もが不審に思いながらも、承諾する。

一人の気まぐれな芸術家が愛人を家庭に連れ込み、そして毒殺された。第一発見者である妻が、激しい嫉妬から殺害したものとして逮捕された。この事実を、5人それぞれが違う視点から捉え、振り返っている。
同じ会話を聞いていても、同じ行動を見ていても、受け取り方次第でこんなにも解釈が異なるのかと、驚かされた。

16年前の事件であるから、物的な証拠は何一つと言っていいほど残っていない。頼るべきはただ関係者の証言のみ。しかも、それが真実を述べているのかどうかの確証もない証言だ。
それをもとに、当時の警察も見つけられなかった真実をポワロが見つけ出す。最後に関係者を集めてポワロがいつもの謎解きを始めるのだが、その鮮やかさには、惚れ惚れする。
物的な証拠のみに頼らず、関係者の心理面からの捜査を重視するポワロならではのミステリだ。

もちろん最後には真犯人が明らかになる。
クリスティ作品の中でも、一、二を争うほど、哀しい結末だった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/11/06

杉の柩

杉の柩
著者:アガサ・クリスティ
訳者:恩地三保子
解説:山野辺若
★★★★★

バラのように美しい女性メアリイが、エリノアの作ったサンドイッチを食べた直後に、苦しみだし死亡する。
エリノアが幼い頃から愛し続けていた婚約者ロディーが、メアリイに心変わりしたせいで婚約解消になったこともあり、動機も充分。全ての証言・証拠がエリノア有罪を指し示しているように見える中、ただ一人エリノアの無罪を信じようとする医師ピーターの依頼を受けて、ポワロが事件の真相追究にに乗り出す。

真犯人の意外さや殺害のトリックもいいのだが、何より心理描写の巧さが際立つ作品だと思う。
エリノアは、被害者メアリイを心から憎んでいた自分を誰よりも知っている。その死を望んだ瞬間が存在したことも嫌というほど自覚しているため、エリノアの無実を信じようとするピーターの気持ちと裏腹に、自分が殺したも同然ではないかと、その罪を認めそうになるのだ。

幼い頃から婚約者ロディーを全身全霊で愛し、その強すぎる気持ちを隠すために、必要以上に素っ気ない態度をとらざるを得ないエリノア。ロディーは、そんなエリノアの激しい愛には気づかず、表面に現れる彼女しか見えていない。
恋とは楽しいものではなく苦しいだけのものなのだと、恋人との結婚を目前にしていてもなお心からの幸せを感じられないエリノアの心理が、丁寧に描かれている。

まるでドラマを観ているかのように登場人物が生き生きと動いていて、臨場感のある法廷でのやりとりが魅力的な作品だ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/10/28

春にして君を離れ

春にして君を離れ
著者:アガサ・クリスティ(メアリ・ウェスト. マコット)
訳者:中村妙子
解説:栗本薫
★★★★★

ほかのクリスティ作品と違って、誰も殺されないし、何も盗まれない。
ただ一人の主婦の回想物語。
しかし、さすがクリスティ!と思わせる一冊である。

「可愛い子供たちに囲まれ、優しい夫にも恵まれ、私って、なんて幸せなんでしょう。」と思っているジョーン。
バグダッドに住む末娘の見舞いからイギリスに帰る途中、天候不順のため数日間、動きがとれなくなってしまった。話す人も誰もいない、読むべき本もないところで、できることは自分について考えることだけ。考えるにつれて、愛に満ちていたはずの家族との関係に疑問を抱き始める。
彼女が何におびえているのか、何をおそれているのか、読み進めるうちに徐々に明らかになり、ついに彼女は、夫の本当の姿、子供たちの本心を知ることを無意識に避けている自分を見つける。それを知ったときのジョーンのとった行動もまた、彼女らしいものだった。

夫の言葉、子供たちの言葉が、ジョーンの心の動き次第で別の意味を帯びてきて、「幸せ」というものの儚さを感じずにはいられない。

ジョーンの心の描写だけで話は進んでいくのだが、全く飽きさせることのないクリスティの力に感服。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/10/04

アクロイド殺し

アクロイド殺し
著者:アガサ・クリスティ
訳者:羽田志津子
解説:笠井潔
★★★★★

本当は、「ビッグ4」の前に紹介すべき作品だったが、私としたことが、一番大事な作品を飛ばしてしまった...。
ポワロシリーズの長編でいうと、「スタイルズ荘の怪事件」「ゴルフ場殺人事件」「アクロイド殺し」の後に、「ビッグ4」がくる。

この本は、私が初めて手にしたクリスティの作品。
高校生の頃だったが、この本を読み終えた後、クリスティに夢中になり、小遣いのほとんどをクリスティの本の購入に使ってしまうハメになった。
それから20年以上経った。
その間、10回以上読み返しているが、何度読んでも、楽しめる。
伏線があらゆるところに張られているにもかかわらず無理が無くて、ストーリーがしっかりしているせいかもしれない。

まだ読んでいらっしゃらない方は、是非、何の先入観も持たずに、誰の書評も読まずに、まず本作を読むことをお薦めする。もちろん、DVD化されている映像を先に観るなんてことは、間違ってもしてはいけない。
その方が、絶対に楽しめるはずだ。

この物語では、ポアロの良き相棒、ヘイスティングズが登場しない。
前作のあと、彼は結婚してアルゼンチンへ行ってしまったのだ。
代わりに殺人が起きた村の医師、シェパードが、ポアロのワトソン役を務める。
シェパード医師は、ヘイスティングズと違ってお茶目なところがないので、その点が物足りない。
ヘイスティングズの勘違い推理は、ちょっとしたアクセントになって、楽しいのだが。

この本はクリスティの作品の中でも、かなり有名なもので、ちょっとネットで検索しただけでも、ネタばれすれすれの情報を目にしてしまうことも少なくない。
先にも述べたが、少しでもそんな先入観があると、面白味が半減してしまう。
先入観を全く持っていず、今までクリスティを読んだことのない方には、是非オススメだ。
ポアロもののミステリではおなじみの関係者全員を集めての推理展開、この場面の迫力はスゴイ。
そして、その後の展開も...。
未読の方には申し訳ないので、あまり詳しく内容を語れない。
そのため、中途半端な感想文になってしまったかも(^^;
 
関係書として「アクロイドを殺したのはだれか/ピエール・バイヤール著」がある。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008/09/15

むかし、あけぼの

むかし・あけぼの―小説枕草子〈上)
むかし・あけぼの―小説枕草子〈下〉
著者:田辺聖子
★★★★★

初めて読んだのは、高校生の頃。
図書館においてあったのを偶然手に取っただけだが、読み終わった後から、平安の世界に惹かれてしまった。
ありふれた現象の中にも、ふと覚える感動。
それは全く気にも留めない人だっているわけで、だからこそ同じ気持ちを分かちあえる人に出逢ったときに、更なる感動を得る。
定子中宮に出逢ったときの清少納言も、そう思ったのだろう。

父である藤原道隆が関白でいる間は、力強い後ろ盾のもとで、主上の愛情を一身に受け、とても華やかな後宮生活を送っていた定子中宮。
しかし、父が病死したあと、関白の位が叔父である道長に移るとともに、その生活は一変して不安定になる。
主上の定子中宮への愛は変わらないが、それだけではどうにもならない世界がそこにはあったのだ。
そんな中でも、やはり明るさと強さを忘れない中宮と、それを支えようとする清少納言。
いつでも前向きに、生きることの美しさ、楽しさを追求しようとする姿は、とても羨ましいものだ。

殿上人との機知あふれる言葉のやりとり、宮中での様々な行事の様子など、本当に生き生きと描かれている。
文章自体も語り口調で書かれているから、とても読みやすい。

下巻では、中宮の死も描かれる。
若宮出産とともに突然の死を迎える中宮。
中宮が逝った後の空虚感といったものが、私にも感じられた。
小説なのだから、読み返せばまた中宮に出逢えるのだが、何度読んでもこの部分では中宮を失う大きな寂しさを感じずにはいられない。
それほど、在りし日の中宮の姿が生き生きと輝いているのだ。
清少納言の、泣くこともできないほどの悲しさも伝わってくる。

私の中の『清少納言』像は、この小説から作られたものでしかない。
この小説の中の清少納言は、勝ち気で楽しいことが大好きで、ウジウジクヨクヨが大嫌いな人。
そして、一途に一人の人を愛すことのできる熱い気持ちを持った人。
そんな清少納言に共感を覚え、大ファンになってしまった。
次は、『枕草子』を、原文で読んでみたいと思う。

清少納言と定子中宮との物語としてだけではなく、清少納言と則光、清少納言と棟世、そして、主上と定子中宮との恋愛小説としての楽しみ方もできる一冊である。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/09/13

よい獣医さんはどこにいる

よい獣医さんはどこにいる
著者:坂本徹也
★★★★★

よい獣医さんを選ぶには、どうしたらいいか。
動物と一緒に暮らしてる人間にとっては、とても大きな問題。
大事な家族の命を預けることになるかもしれないわけだから、慎重に選ばなければならない。
だけど、どうやって選択すればいいのか、何を基準に「良い、悪い」を判断すればいいのか、わかりにくいと思わないだろうか。
そう思っていたときに、この本に出逢った。

獣医療の現場では、様々な問題が発生しているようだ。
本当に動物を愛し懸命に努力を重ねていらっしゃる獣医さんがいる一方で、モラルの低下した、いわゆる『儲け主義』に走る獣医も少なくはない。
どうして、このような獣医が存在しうるのだろうか。

犬や猫などの小動物を診る獣医さんの歴史というのは、まだ浅いものだそう。
40年前には、ペットの獣医さんは存在しなかった。
主に公衆衛生、牛肉や卵などの衛生管理などが獣医さんの使命だったのだ。
大学におけるカリキュラムも、いまだにこちらが中心であり、小動物の臨床について、あまり学ぶことができないまま、「獣医」として世に送り出されている。
それでも、卒業してすぐに、どこかの動物病院の助手として勉強することのできる若い獣医さんは、まだいいほうだろう。
問題なのは、長い間、畜産関係の仕事に就いていて、定年になったから動物病院でもやるか、という軽い気持ちで開業する獣医がいるということ。
小動物についての経験も知識も少ないはずなのに、免許さえ持っていれば「獣医」として開業することができる。
そして、何か問題を起こしたからといって、獣医師免許が取り消されることもない。
法律上、ペットは「モノ」なのだから、医療ミスで殺してしまっても器物損壊の罪にしか問われない。
恐ろしいことだ。

獣医には、いろんな人がいる。
儲けは度外視して、動物と飼い主が幸せに暮らせるためにと一生懸命に頑張っていらっしゃる獣医さんもいる。
危険だけど安い薬を使い、道具も使い回して、原価を下げ、「うちは治療費が安いですよ」という獣医もいる。
安全な薬を使い、1匹1匹に対して充分に誠意を持って治療にあたった結果、他より治療費が高くなってしまう獣医さんもいるだろう。
日々進歩していく医療技術について何の勉強もせず、ただ思いつきで診療し、ミスをミスと認めず威張り散らすだけの獣医もいるようだ。

よい獣医さんはどこにいるのか。
それを見つけるには、飼い主がもっと賢くなることが必要なのだろう。
医者にまかせっきりにするのではなく、自分でも勉強することが必要なのだと思う。
獣医さんに積極的に質問をし、情報を得ることができるだけの知識を身につけること。
そして、病気になって慌てて病院を探すのではなく、健康なうちから情報を集めることも大切なこと。

大切な家族の命を守るのは、獣医ではない。
いつもそばにいてあげられる飼い主自身なのだ。
私も3匹の犬を寿命ではなく病気で亡くした。
私自身が賢い飼い主であったならば、今も元気に楽しく暮らせていただろう。
本当に悔しくて、申し訳なくて、無念でならない。
この3匹の死を無駄にしないためにも、賢い飼い主にならなければいけない。
よい飼い主になるために、この本はとても役に立つ。
今の獣医療の問題点について、少しでも知っておくことは、絶対に無駄にはならないはず。
獣医の現場はどんな方向へ向かっているのか、どういうふうに獣医さんと接すればよいのか、そのヒントが得られる1冊だ。

ひとつ、どうしても気になるのは、獣医を育てる現場で、実習の名のもとに故意に傷つけられ、命を落としている動物がいるということ。
骨折の実習のために、健康な犬の足をわざと折ってしまう、そんなことが本当に行われているのだろうか。
そんなことをしなければ、学べないものなのか。
病院へ行けば、実際の治療の現場も見学することができるだろう。
欧米では、イミテーションやコンピュータを用いた実習が行われているそうだ。
それじゃ駄目なのか。
医学の進歩のためには、動物の命を犠牲にすることも必要な時もあるだろう。
ただ、この実習については、無益ではないかと思えて仕方がなかった。
これは、ただの感傷にしか過ぎないのだろうか...。

最後に、本書の冒頭部分に書かれていた言葉を紹介したい。

 選択を誤らなければ、あと数ヶ月あるいは数年、
 飼い主との幸せな日々を過ごせたはずのペットたちの魂に捧ぐ。
 誤った選択のために、不幸な死を迎える動物たちが減りますように...。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/09/07

氷の華

氷の華
著者:天野節子
★★★★★

この秋に米倉涼子主演でドラマ化されると聞いたので、まずは原作を、と読んでみた。
米倉涼子演じる「悪女」は、私の好みの女性でもある。
「黒革の手帖」しかり「わるいやつら」しかり。
悪女ではなかったけれど、「不信のとき」もおもしろかった。
いずれも原作も読んでいる。
いわゆる「悪女」ではなかった「モンスター・ペアレント」はイマイチだったな。

さて、このミステリ。
500ページほどあるけれど、それを感じさせないほど一気に読み進められる。
ストーリー展開が上手すぎて、目が離せないのだ。
主人公である恭子は上流階級のお嬢様。
不妊治療に6年間を費やしたにもかかわらず、夫との間には子供が生まれなかった。
それが、気位の高い彼女のウィークポイントだった。
そこへ、夫の愛人を名乗る女性から電話がかかってくる。
妊娠したので彼と離婚してくれと申し入れしてくるのである。
電話で子供に恵まれなかったことや家事が一切できないことを揶揄され、逆上した恭子は殺意を抱く。

と、第一の殺人まではこんな感じ。
しかし、彼女が殺したのは電話の女ではなかったのではないかとの疑惑が浮上する。
彼女が殺したのは誰だったのか。本当の犯人とは...。展開が二転三転する。
結局のところ誰が勝って、誰が負けたのか、読了した今もよくわからない。
途中で飽きさせることなく、読み進めさせる力はすばらしい。
これが作者・天野節子の処女作とは思えない。しかも当初は自費出版だったそうだ。

米倉涼子主演でドラマ化されるということを知っていたので、読みながらも映像が頭の中に浮かんできた。
まるでドラマを先取りして観ているような気分だった。
共演者は誰なのかは知らなかったけれど、夫役が堺雅人というのは少しイメージが違うな。

原作は高得点。
恭子タイプの悪女は、やはり私の好みだ。
高慢だけれど、薄いガラスのように少しヒビが入るとバラバラに壊れてしまう女性。

このミステリがどのように映像化されているのか楽しみ。
録画してあるので、前編・後編を一気に観る予定である。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/09/04

誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない

誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない
著者:秋田禎信
★★★★★

コンビニで何気なく書棚を見てたら、このタイトルに出会った。
最初は「何だ、この本?」って思ったんだけど、1,2ページ立ち読みしただけで、その本を持ってレジへ。

なんかね、ホントにもうくだらないんですよ。
とてもくだらないことに対して2人の大学生がクソ真面目に、そして一見論理的に議論していく。

まずは「誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない」について。
本当に「誰しも」なのか、とまず疑問を抱く。
働かずにすむものなら、その方法を考えるべきではないか、と。
目的は報酬で、その手段が労働であるならば、手段を省略して目的を達成する方法を考える方が、より先進的ではないかというのだ。
しかし、この2人が思いついた手段というのがまたシュールなのである。
結果的にやはり就職しなければならないという結論に至るのだけれど、その後も就職活動の中でいろんなことに疑問を抱き、議論していく。

この2人が就職活動で訪れる会社もまた普通ではない。
私のお気に入りは「株式会社渡邊抹殺」。文字通り渡邊さんを抹殺するためだけの法人なのだ。定款にもそう書いてあるらしい。しかし、この業務内容だけで利益をあげることができるのか...。そのあたりは読んでいただいてからのお楽しみである。

いったいこの2人の大学生がどのような人生を歩んできて、今後どのような人生を全うしていくのかは不明だが、間違いなくいえるのは、この本は就職活動には決して役にはたたないということだ。
しかし、読んで損したとは思わないだろう。
数少ない記憶に残る一冊かもしれない(ホントか?(笑))。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/09/02

天璋院篤姫

天璋院篤姫(上)
天璋院篤姫(下)
著者:宮尾登美子
★★★★★

司馬遼太郎の「竜馬がゆく」が大好きで、幕末ものにはそこそこ詳しいと思っていたんだけど、恥ずかしながら「篤姫」の名はNHKの大河ドラマが始まってから知った。
あらすじをサクッと知って、その人生に興味を持ったので、「天璋院篤姫」を買ってみた。ちなみにドラマは観てない。
宮尾登美子の本を読むのも初めてなのだけれど、とても人物描写・登場人物の心理の表現がうまいなと思った。

歴史小説の中には、起こったできごとが延々と羅列してあって、途中でつまらなくなるものもあるんだけど、司馬遼太郎の小説は、登場人物の何気ない仕草や台詞が散りばめてあって、飽きることなくその世界の中に浸っていられる。この小説も同じ感じ。外様大名の家から「幕末」という時期に徳川幕府へ嫁いだ篤姫の複雑な気持ちが、とても伝わってくる。登場人物が生き生きしてるんだな。

歴史小説って、ほとんどがフィクションで、ノンフィクションの部分なんてほんの少しだと思う。だから、起きた事象のみをただただ書かれていても、おもしろくないんだよね。登場人物を「描いて」ほしい。現代からその時代へと読む人の心をいざなってほしい。そういう意味で、この本には満足。

まだ下巻のはじめの和宮降嫁が決定したあたりまでしか読んでないんだけど、ここまでも結構波瀾万丈。その才覚ゆえに、生家から島津家へ養女ゆくことになり、血の繋がった家族とは二度と逢えない運命に。その後また公家の近衛家に養女となり、将軍の正室となる。
学問に秀でている篤姫でさえ、女は自分の人生を自分で決めることはできないと、信じ込んでいるのが不思議な感じ。男の政治的な欲望の道具になっても、仕方がないものと考えている。
これは武家に限っていえることなのかな? だって、和宮は降嫁するのを頑強に拒否し続けたといっているもの。ま、最終的には降嫁するんだけどさ。

このさきの篤姫と和宮とのやりとりが楽しみ。二人とも気が強そうだし。

でもさ、大河ドラマの宮崎あおい。小説の篤姫のイメージとは少し違う気がするんだけど、ドラマを観ていないせいかな? もう少し、キャリアウーマン的な雰囲気を持った人の方がイメージ的にはあうんだけどな。

| | コメント (0) | トラックバック (0)