101)ミステリetc.

2009/10/27

トウシューズはピンクだけ


トウシューズはピンクだけ

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書評/ミステリ・サスペンス

★★★★☆

アメリカの田舎町で起こった老婦人キャロラインの失踪事件。
愛犬も荷物も車も残し、元バレーダンサーだった彼女は、降る雪が溶けるが如く消えてしまったのだ。
それに不審に思ったのが、妊娠6ヶ月の主婦ルーシー。
重いお腹を抱えながら、あちこち動き回る彼女。
けれど、キャロラインの行方は全く手がかりさえ掴めず、時だけが過ぎていく。

そんなこんなしているうちに、金物屋の主、強欲爺さんが殺されてしまう。
第一発見者は、よりにもよって妊娠中のルーシーだった。
そして、ルーシーの友人が犯人として捕まってしまう。

正義感あふれるルーシーとその仲間たち。
ルーシーも探偵としての溢れる好奇心が抑えきれない。

田舎町に立て続けに起きる事件の数々。
無謀とも思えるルーシーたちの大冒険。
最初はのんびりムードで始まった物語が、中盤を過ぎたあたりから、ドキドキハラハラが強くなっていく。終盤へ向けてのスピード感は素晴らしかった。一気に読み進めずにはいられなかったほどだ。

ミステリとしては、まぁまぁといったところだけれど、傲慢で残虐な男に立ち向かうか弱い女性といった構図があちらこちらに散りばめられていたり、仕事と家庭のどちらを選ぶのが幸せなのだろうかとか、女性として考えさせられるところは多くあった。しかし、女性も侮れない。いざとなったら強いものだ。

ルーシーが4人目の子供を授かる最後のシーンもさわやかで、好感を持てる一冊のミステリだった。

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2009/10/17

ファントム〈下〉

ファントム〈下〉
著者:スーザン・ケイ
訳者:北條元子
★★★★★

何度目かのエリックとの別れを終えた。
何という喪失感。
何度経験しても同じように喪失感を覚える。

下巻は、エリックがペルシャから去り、フランスへ戻るところから始まる。自分の生まれ故郷へと戻るのだ。
そして、今はもう誰も住んでいないだろうと思って訪れた生家には、驚くことに母がまだ住んでいたのだ。

エリックは、自分が出て行ったあと、母は新しい愛を見つけ再婚して、可愛い子供を授かっていると信じていたのだ。それが、たった一人でまだこの家に住んでいたとは...。エリックの想いはどんなものだったのだろう。
しかし、訪ねるのが遅すぎた。
訪ねた日の3日前、母は死んだのだった。

初めて母に触れることが出来る、キスが出来る、そう思って母の亡骸を見たとき、エリックは母が自分に触れるのを嫌がった気持ちがわかった。亡骸は、かつての母のように美しくは無かったのだ。
これで、母との決別を完全に果たしたエリック。
完全に一人で生きていくことができると悟った。

しかし、そこで知った「オペラ座」設計コンテスト!
既に終わったことを知ったエリックの怒りと言ったら!
自分こそがその設計にふさわしいと思っていたのに...。

エリックは諦めなかった。
コンテストで優勝したシャルル・ガルニエに近づき、共同製作することへと話を持って行った。

数々の困難を乗り越えて完成したオペラ座。
その地下室に、やっと自分の最後の居場所を見つけたエリック。
これで、安らかに暮らせるはずだった。
他の人間に顔を見られることもなく、邪魔されることもなく、大好きなオペラは聴き放題。エリックは満足していたはずだ。

しかし、神は冷酷だった。
エリックになおも苦難を与えた。
クリスティーヌだ。
かつて愛して欲しいと願い続けた母によく似た娘。
エリックが認めるほどの美しい声の原石を持つ娘。
彼が心を乱されずにいられようか。

そのあとは、ガストン・ルルーの「オペラ座の怪人」にある通りである。ほとんどは。
苦しいクリスティーヌとエリックとラウルの恋を巡る闘いが始まる。
エリックはファントム(怪人)と呼ばれはしたが、クリスティーヌに対しては最期まで紳士だった。
己を抑えるためにどれだけの忍耐を強いられようとも、紳士であった。

この物語の最後に納得されない読者の方もいらっしゃるだろう。完全なる著者の創作部分だ。
しかし、私はそこにエリックへの救いを見た。

さようなら、エリック。
またページをめくる日まで...。

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2009/10/16

ファントム〈上〉

ファントム〈上〉
著者:スーザン・ケイ
訳者:北條元子
★★★★★

この本と出逢った瞬間を今でも覚えている。
一目、表紙を見たときから、なぜか惹かれた。
手に取り、1ページを見た途端、自分のものにせずにはいられなかった。運命の出逢いだったのかもしれない。
それほどに、私はこの本に惚れている。
というより、この本の主人公エリック(ファントム・オペラ座の怪人)に惚れているのだ。

ガストン・ルルー原作の「オペラ座の怪人」のファントムの生涯を描いたのが本書である。
エリックはなぜオペラ座に潜み、人を怯えさせ、ファントムと呼ばれるに到ったのか。

エリックは、生まれてから一度も人間からの愛を受けずに育った。
母からでさえも。
原因は、その人間とは思えない醜悪な容貌のため。
誕生日のプレゼントに何が欲しいかと母から聞かれ、5歳の彼がこわごわ言い出したのは、「キスして欲しい」だった。息子がやっとの思いで言い出したその言葉から、母は背を向けた。二度とそんなことを言わないようにと彼に向かって叫びながら...。

ただ、彼にも友達はいたのだ。
彼の容貌も気にせず、無邪気に顔をなめてくれる犬のサシャ。
サシャだけは、エリックの心許せる友。

エリックは本当は敬虔なキリスト教徒だった。
それが教義を捨てたのは、天国へ行けるのは人間だけで、動物は行けないと牧師から言われたとき。
ただ一人の友と共に天国で逢うことが出来ない?!
エリックはそれが許せなかった。
そのときから、彼は神を捨て、悪魔に魂を売ったのかもしれない。

醜い容貌を持つ彼の噂は村中を駆け回り、不吉だと暴力をふるうものも出てきた。現にサシャが殺され、自分もナイフで刺されるに至って、自分がいては母の命さえも危ないと悟ったエリックは、わずか8歳で家を出た。母を守るために。
皮肉にもその日は、母がエリックへの真の愛情を自覚したときだった。
あと1日、エリックが旅立つのが遅ければ...。
あと1日、母が悟るのが早ければ...。

それからジプシーに混じって見せ物にされたり、そこを離れひとりでさすらうごとにエリックは、冷たく強く、そしてある部分でもろく弱い青年へと成長していく。

人間全てを憎むに到るだけの理由がある。
エリックは人間から人間として扱われて来なかった。
たまに容貌を気にせずエリックに好意を持ってくれる人間に出逢っても、いつも最悪の結末がやってくる。
それを学び、ますます人間を憎み蔑むようになる。

残忍な殺人も行うエリック。
それでもなお、惹きつけられずにはいられない。
何度、この本を読み返しただろう。
読み返す度に、切なく哀しくなる。
本をそばに置いているだけで、落ち着かなくなるのだ。

著者もエリックを愛していたのだろう。
だから、エリックは読者である私をも非常に惹きつける。

上巻はペルシャで王室にとどまるところで終わる。
傲慢で我が儘で、残忍な后の欲望を満たすためにペルシャに呼ばれたのだ。
生まれつき正邪の区別がつかないエリック。
殺人自体を厭うことはしない。しかし、意味もなく人に苦しみを与えることを、良しとも思わないはずなのだ。
新しい拷問の道具を作れと言われれば、器用な彼は片手間にでも作ってしまう。本当の彼は美しいものが好きなはずなのに。醜く人間を死に導くものなど作りたくないはずなのに。
自分の意に染まぬ残忍な拷問方法を考え出すようにと、后から命を受ける度に、エリックの心は傷ついていった。それをごまかすために、后に与えられた麻薬に身をゆだねるようになっていく。
自分の心の醜い部分をあらわにさせられることに、エリックは耐えられなくなっていったのだ。

下巻ではさらに新たな苦しみを味わう。
あの運命の少女、クリスティーヌとの出逢いが待っている。
そこへ行くまでの旅も決して楽なものではない。

エリックに救いは訪れないのか...。
神を冒涜するエリックには、神も救いを与えないのか。
ただただ、哀しみと切なさが漂う物語である。

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2009/10/10

幽霊の2/3


幽霊の2/3 (創元推理文庫)

Amazonで購入
書評/ミステリ・サスペンス

著者:ヘレン・マクロイ
★★★★☆

本が好き!」から献本いただきました。

時は1950年代。場所はアメリカ。
ある出版社を営む男の家で、内輪のパーティが催された。
その中で行われたゲーム「幽霊の2/3」。
このゲームは、簡単に言うと、問題を3問だし、1問不正解すると回答者は”幽霊の1/3”になる。そして、3問間違えると、”幽霊の3/3”すなわち”幽霊そのもの”となり、ゲームから抜けるのだ。
そのゲームの最中、回答者となっていた男性作家が、青酸性毒物により死亡する。その名の通り、”幽霊”になったわけだ。

このミステリのトリックは、特に目新しいものではなく、逆に古くさい。しかし、作品の魅力はそんなところにはないのだ。出版業界の力関係から始まり、過去を忘れた作家の正体が少しずつ暴かれていく様など、トリック以外のところに魅力は多い。
探偵役の精神科医が動けば動くほど、昔の隠れていた事実がよみがえり、新しい事実が顔を出し、展開が二転三転する。いったん読み始めると、途中で本を置くのをためらわせるほどに惹きつけられる。

読み返せば見逃した伏線がたくさん綺麗に張られているのだろう。もう一度、最初からページをめくりたい気分だ。

登場人物もみな特徴ある個性の持ち主ばかりなので、途中でこんがらがることもない。その個性こそが、このミステリーを一層面白くしている。

解説者の杉江松恋氏のおっしゃるとおり、このタイトルは非常に美しい。
読了者にしかわからない美しさ。
多くの方に感じていただきたい。

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2009/10/06

脳内出血

脳内出血
著者:霧村悠康
★★★☆☆

参加しているSNSの友人に薦められて読んでみた、初めての霧村氏の作品である。
まず、表紙裏から概要を引用。

**********
東京近郊のホテルで女性の変死体が発見されたが、身元に関する手がかりは何ひとつ出てこない。
同じ頃、都内のホテルで開催された日本代謝病遺伝子学会では、国立O大学大学院に所属する28歳の医師が注目を集めていた。世界最高峰の科学誌に若くして論文が掲載されたのだ。
ところが、その論文にねつ造疑惑が持ち上がる。
現役医師だから書ける衝撃の医療ミステリー
**********

さて、ホテルで変死体となっていた女性は、全裸で、死因は脳内出血だという。しかし、その首には女性の細いベルトが巻き付けられ、死後に首を絞められた痕があった。
まず、この点に惹きつけられた。
脳内出血で死んだ人間の首をさらに絞める。
この行動は、何を意味するのか。
そして、女性の身元を現す唯一の手がかりとなるメモ。

女性の身元を判明するまでに2ヶ月というのは、かなりの時間を要したものだ。メモの解読も、そんなに難しくないと思うが...。そのあたりに少々の疑問は残るものの、全体的には面白かった。
犯人を見つけるのは、それほど難しくはなかった。相変わらず勘に頼ったものではあるが。死亡後の絞殺というのも、真相を知れば「なぁんだ...」といった感じだ。
しかし、医療現場、というより大学病院の研究職に携わる医師たちの人間くささは、読んでいて飽きなかった。あくまでも自己保身に走るヤツというのは、どこの世界にも居るものだ。
さて、捏造疑惑をかけられた研究員。
疑惑を突きつけられても持論を展開する。
危うく論破させられそうになる理論ではあるが、間違っていることはハッキリしている。ハッキリしていると思いたい。今の研究者たちには、そのような人たちがいないことを祈る。

犯人が判明した今、もう一度読み返して、心の底からこのミステリーに納得したい気分である。
殺人事件よりも面白い何かが、この作品には隠れている気がする。
作者によるイタズラっぽいトリックも、再読したい一因だ。

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2009/08/18

何か文句があるかしら?


何か文句があるかしら

  • マーガレット・デュマス/島村 浩子 訳
  • 東京創元社
  • 1302円
Amazonで購入
書評/ミステリ・サスペンス

★★★☆☆

本が好き!」から献本いただきました。

まずは、表紙裏のコメントをご紹介。

*************
演劇修行で訪れたロンドンで電撃結婚したチャーリー。愛しい旦那様のジャックと、故郷サンフランシスコに帰還した彼女をホテルのスイートで出迎えたのは、身元不明の全裸死体だった。さらに親戚やみずからの運営する劇団にも災難が襲うにいたり、チャーリーは素人探偵として活動を始める。だが、旦那様にもなにやら秘密があることを知って.....。セレブな新婚夫婦の華麗なる?活躍。
*************

さて、感想は。。。
このミステリ。とにかく冒頭部分から、ビューティホーでワンダホーでドリーミンな、アメリカ度200%のノリで始まる。あまりにビューティホーでワンダホーなものだから、その世界に入り込むのに多少時間を要し、冒頭部分の読書スピードは若干遅かった。
なんてったって、相づち代わりに”オーケイ”が使われるのだ。こちらも”ア~ハ~ン”と返さなきゃいけないかと思うような雰囲気なのである。
ま、慣れてしまえばこっちのもの。最初さえ乗り切ればそれこそ”オーケイ”なのである。

そんなビューティホーでワンダホーなミステリだが、事件はビューティホーでワンダホー(しつこい?^^;)でもなんでもなくて、浴槽に浮かぶ正体不明の女性の全裸死体から始まる。主人公チャーリーはもちろんのこと、旦那様のジャックも知らない女性らしい。

そこからチャーリーの従姉妹の誘拐やらなんやら、事件が起きるが、機転の良さ・行動力・好奇心満載のチャーリー。黙ってみていることなんてしない。ジャックをヒヤヒヤさせながらも事件解決に動き出す。

読みやすいといえば読みやすいミステリだった。少し冗長だなと感じさせるところもあるけれど。
ただ、私には合わなかったようだ。
読むスピードが遅かったのは単にアメリカ度200%の雰囲気に圧倒されていただけではなく、物語の世界に最後まで私が入り込めなかったのだ。
基本的に私が冒険ミステリと性が合わないというだけのことだろう。
残念だ。

登場人物は魅力的。
ストーリーはスピードがあって飽きさせない。
ミステリとしても合格点。
私自身には合わなかったけど、という条件をつけてならお薦めできる一冊である。

本読みな暮らし何か文句があるかしら

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2009/07/31

狡猾なる死神よ


狡猾なる死神よ

  • サラ・スチュアート・テイラー、野口 百合子
  • 東京創元社
  • 1029円
Amazonで購入
書評/ミステリ・サスペンス

★★★☆☆

本が好き!」より献本いただきました。

28歳でハーバード大学の助教授であるスウィーニー・セント・ジョージ。彼女の研究対象は墓石である。様々な時代の墓石を調査し、いつ頃、誰による作品なのかが興味の対象なのだ。
その彼女を惹きつけるひとつの墓石。
舟の中に横たわる美少女の死体。それに覆い被さるように死神が配置されている。作成された時期と、作品の傾向との不合が彼女の興味を引いた。
その墓地の近くにある親戚の家に一緒に行かないかと友人トビーに誘われたスウィーニーは、最初は迷うものの、その墓石に眠る女性の子孫が突然亡くなったことに疑問をもち、ついていくことにした。

さて、このミステリ。難を言えば登場人物が多すぎるのである。現代に生きる人々、何十年も前の芸術家達、それに関わる村人。誰が誰の息子で、誰と誰が恋人なのか、本気で集中しなければ、そのミステリの世界に入り込めない。しかし、中盤を過ぎる頃から、どんどんと話が加速していき、最後まであっという間に読み終えてしまった。

最初に怪しいなと思った人物が、やはり犯人だった。ミステリの読み過ぎか、こういうことには勘が働くようになったようだ。
トリックや動機など、ミステリに関するものについては、全く面白味はない。
ただ、芸術家村という一風変わった場所に住む人々の生活ぶりは楽しく読めた。ミステリではあるけれど、謎を解くより冒険を楽しむと言った類のものだと、私は思う。
それと、芸術作品の描写。これは美しかった。実物を想像してみたとしても、その美しさには到底及ばないだろう。
各時代の芸術作品や詩歌が登場するが、こういったものに造詣が深い方なら、もっと楽しめる作品だ。

このスウィーニー・セント・ジョージ女史が主人公になる作品がシリーズ化されているという。機会があれば読んで、この作品と比較してみたいものだ。

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2009/07/08

幽霊屋敷の謎


幽霊屋敷の謎

Amazonで購入
書評/ミステリ・サスペンス

★★★☆☆

本が好き!」から献本いただきました。

読みながら、そして読み終わって思うのは、この本に小・中学生の頃に出逢いたかったということだった。その頃に出逢っていたら、ドキドキワクワクしながら読めたのに。
かといって、大人になった今、読んでも楽しめないわけではない。非常にスリリングな冒険ミステリだった。

友人の叔母の家で起こる様々な幽霊事件。そこへ父の誘拐事件が加わっていく。主人公ナンシーにとっては、落ち着く暇もないほどの出来事が次々と起こるのだ。
それなのに、ナンシーは見事に次から次へと難題を解決していく。その爽快なことといったらない。
序盤は少しスロースタートだったが、中盤からラストに向かうまで、息つく暇もなく事件が起こり、それが面白いように解決されていく。
正直、少し上手く行き過ぎかな?という点もなきにしもあらず。警察や弁護士、いろんな人々がみんなナンシーのお手伝いをしてくれる。その辺りも、少し違和感を覚えた。

表紙の絵をみて、ナンシーというのはティーンになったばかりの少女かと思っていたが、そうではないようだ。自分で車を運転したりしているところを見ると、二十歳前後かな?
読んでいても今ひとつ主人公の年齢設定が見えてこなくて、感情移入しづらく、そこが少し難点だった。

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2008/12/21

推理小説常習犯

推理小説常習犯―ミステリー作家への13階段+おまけ
著者:森雅裕
★★★☆☆

タイトルだけを見ると、ミステリー作家になるための指南書のように思えるが、実は出版業界の暴露本である。編集者や出版社の裏側、大きな賞をとったからといってすぐに売れっ子になるわけではないという真実、本にしてもらうためにはある種の妥協や媚びも必要だという現実について述べられている。

依頼された原稿を書き出版社に送ったところ、全く連絡もなく、もちろん原稿料も入ってこないなど、この業界のいい加減さには、驚かされた。全てが口約束の上に成り立っている業界であるようだ。

最初に書かれたのが平成の初め頃、加筆されたのも平成15年。なので現在の状況と食い違う部分もあるのかもしれないが、著者ご本人が体験したことをもとに書かれているので、常識から考えて「嘘だろ~」という部分でさえもリアルに感じられた。

サブタイトルに「ミステリー作家への13階段」とあるように、ミステリー作家になるための...というより、とにかく賞をとるための、あるいは出版してもらうためのテクニックも多々述べられていて、非常に興味深い本である。
著者は、自分の作品に妥協を許さず、そのかたくなな姿勢が、ある意味で緩い出版業界と相容れず、冷遇されているような印象を受けた。その自分を反面教師として、こうした方が業界の受けがよくなる、といった記述も少なくない。

著者のミステリーは失礼ながら読んだことがない。
軽く読めるといった類のミステリーではなさそうだが、機会があったら手にしてみたいと思う。

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2008/12/14

七つの怖い扉

七つの怖い扉
著者:阿刀田高、小池真理子、鈴木光司、高橋克彦、乃南アサ、夢枕獏、宮部みゆき
★★★☆☆

上記の作家7人の短編小説が1つずつ掲載された本書。
テーマは本書の表紙裏にある紹介文を引用しよう。

***以下引用***

「ねえ、私、生まれてから一度も〈怖い〉と思ったことがないの。あなたのお話で、私に〈怖い〉ってどんなものか教えてくださいな。」---ある作家は哀切と戦慄が交錯する一瞬を捉え、またある作家は「予感」でがんじがらめにする秘術を繰り出した。そしてまたある作家は、此岸と彼岸をたゆたうが如き朧な物語を紡ぎ出した....。
当代きっての怪異譚の語り部が腕によるをかけて作り上げた恐怖七景。

***引用終了***

1.迷路---阿刀田高
昌司は、年上の遊び友達から怖い話を聞かされる。「遺伝っていうやつは、先祖のだれかが人殺しをしていれば、それが頭の中に伝わる。けど、しばらくは隠れている。あるとき、ヒョイと出てくるんだ。」
昌司は、ものをよく忘れる。自分のやったことなのか、そうでないのかがわからなくなるときがあるのだ。ある冬、たくさんの雪が積もった。家の裏にある古い井戸の上に落とし穴を作った昌司。ちょうど通りかかった幼い女の子をおびき寄せて落とし穴に落としてしまった。急に怖くなった彼は、その上から雪を覆い被せ、無かったことにしてしまう。雪も溶けた頃、井戸の中をのぞいてみると、女の子のいた形跡がない。アレは本当のことだったんだろうか....。それとも先祖の記憶が残っているのか...。よくわからないまま時は過ぎていく。
昔話を読んでいるような、そんな感じで読み進めていたのだが、最後の1文で、ストンと物語を落としている。
全てが腑に落ちたような気持ちの良い読後感だった。

2.布団部屋---宮部みゆき
時は江戸。代々の主人が短命であることが有名な酒屋があった。その名を兼子屋という。
女は長生きするのだが、男は自分の子供が17、8になるころ、眠ったように死んでいく。
早死にの評判が定着している兼子屋は、無理な注文も受け、商人としてめいっぱいの誠意で得意客の信用をつなぎ止めていた。奉公人にもきびしいのだが、不思議と奉公人が逃げ出したり、不祥事を起こしたりすることがない。他の商人たちがうらやましがるほどである。
そんな兼子屋で、一人の女中が突然頓死する。16歳であった。理由もわからないまま病死ということで片付けられたのだが、この女中の妹の「おゆう」が代わりに奉公することになる。
さて、兼子屋にまつわる不幸の原因とはなんだろう、奉公人が従順な原因とは?
宮部みゆき氏の時代物は「ぼんくら」を持っているが、江戸の商家の様子が生き生きと描かれている。最後の謎解きも心地よい怖さと安堵を残している。さすが、である。

3.母の死んだ家---高橋克彦
ある作家と担当編集者がパーティの帰りに山道で迷ってしまった。夜も充分に更けた頃、ふと気づくと別荘地のあたりをさまよい歩いていることに気づく。しかも、作家の祖父が昔に所有していた別荘のある地である。
その別荘では、作家が幼い頃に母が自殺しているため、できるだけ嫌なことは思い出さないようにと、意識的に自分を遠ざけていた場所だった。幼すぎたため、記憶も曖昧になっている。しかし、別荘地を歩くごとに記憶がよみがえり...。
この物語の最初の一文は次の通り。
「思えば、すべては偶然などではなかったのかも知れない。」
最後にまたこの言葉を思い出すことになる。
この著者の作品は初めて読んだが、他の作品にも興味が沸いた。

4.夕がすみ---乃南アサ
自分の母の妹の子、つまり従妹の「かすみちゃん」が、立て続けに家族を失った。はじめは生まれて間もない妹。次に両親。ひとりぼっちになった「かすみちゃん」を、自分の家で引き取りたいと母が言い出した。
かわいい「かすみちゃん」が大好きな主人公は大賛成。しかし、兄が反対し、祖母も渋っている。そこを上手く説得し、一緒に住むことに決まった。
美しくて可憐な少女「かすみちゃん」。一目見た瞬間、だれでも好意を持たずにはいられないほど、いじらしく健気なのである。渋っていた祖母も、いつの間にか「かすみちゃん」のとりこに。
しかし、兄だけは相変わらず嫌っている。気味が悪いというのだ。
そんななか、今度は主人公の兄がバイク事故で死亡。悲しみに暮れる一家を慰めてくれたのは、家族を失っても健気に振る舞う「かすみちゃん」だった。
この七作の中で一番気に入った短編。無邪気な「かすみちゃん」に、私も惚れてしまった。
彼女の作品も初めて読んだ。やはり同じく他の作品も読んでみたい。

5.空に浮かぶ箱---鈴木光司
目が覚めた主人公が見た世界は、長方形に切り取られた空だった。とあるビルの排水溝のような溝の隙間に身体を横たえていたのである。夢とうつつとの間をいったりきたりしながら、記憶をたどっていく。
自分の状況を確認しようと、かろうじて動く上半身を少し起こしてみたが、足が見えない。自分の大きなおなかが視界を遮っているのだ。妊娠するようなことをした覚えがないが、妊娠していることは確かな様子。思い出すのは、急死した大学の先生の部屋で見つけたビデオテープ。
なんだか「リング」の続き物のような物語。
「リング」はそれなりにおもしろく読めたが、短編であの恐怖をよみがえらせるのは難しいのではないかと思った。

6.安義橋の鬼、人を噉らふ語---夢枕獏
時は鎌倉時代あたりであろうか...。
あるとき若い者が集まり酒を飲んでいた。ひょんなことから安義橋に出るという鬼の話になる。あれやこれやと盛り上がっていると、理屈者の源貞盛が反論する。そんなもの、いるはずがないではないか、と。どこの世界にもこういう人間が1人はいるものだ。酒の勢いもあってか、みなが「そういうなら、今からその橋へ行ってこい」と貞盛に仕掛ける。後に引けなくなった貞盛は、1頭の馬を連れ、橋へと向かった。残った若者達のうちの1人が、ある提案をした。これから自分が鬼に化けてその橋へ行ってやるというのだ。誰かが見に行かなければ、本当に貞盛が橋まで行ったのかどうか、確認できないではないかという。もしやってきたのであれば、鬼の振りをして驚かせてやろうというのだ。言い出したのは菅原道忠。
さて、橋の上では何が起こったか...。
時代物ということもあり、少し取っつきにくい部分もあったが、最後のオチは、さもあらん、という感じである。

7.康平の背中---小池真理子
特にこれといった感想もない。
ちょっとそっけないと言われるかもしれないが、オチも落ちているのかどうかわからないようなものだし、本書の中では、唯一最後まで読むのがつらかった作品である。

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2008/10/11

犯行現場の作り方

犯行現場の作り方
著者:安井俊夫
★★★★☆

著者は一級建築士。
その目線から10冊のミステリに登場する建築物を検証している。
ちょっと変わった目線からミステリを見てみると、これまた面白い。
出てくるミステリは、すべて国内もの。
ちょっとリストアップしてみよう。

第1章「十角館の殺人」 作:綾辻行人
第2章「8の殺人」 作:我孫子武丸
第3章「長い家の殺人」 作:歌野晶午
第4章「玄い女神」 作:篠田真由美
第5章「十字屋敷のピエロ」 作:東野圭吾
第6章「笑わない数学者」 作:森博嗣
第7章「誰彼」 作:法月綸太郎
第8章「本陣殺人事件」 作:横溝正史
第9章「三角館の恐怖」 作:江戸川乱歩
第10章「斜め屋敷の犯罪」 作:島田荘司

この本を読んだ時点で、私が読了していたのは2作。
東野圭吾「十字屋敷のピエロ」と、横溝正史「本陣殺人事件」だけであった。

本書の中では、各作品の文面から、作中に出てくる建物がどのあたりの地域に建っているかに触れ、建物の構造を想像(創造?)し、実際に建築可能な物件かどうかまでを検証する。
そして、その建物を建てるとしたら、いくらかかるか、ということまで算出。
一級建築士の著者ならではの視点である。

実際には建築基準法などに触れ、違法な建物がほとんどのようである(苦笑)。
また、中には十数億円もかかると算出された建物もあって、ビックリした。
虚構の世界だからこそ、成り立つ建物なのがよくわかる。
しかし、それでも面白いミステリになっている傑作ばかりを選んでいるのだろう。

アガサ・クリスティ、横溝正史、東野圭吾、エラリー・クイーンなどを読み、そろそろ他の作家の作品も読んでみたいなと思っていたところに、この本を目にした。
そして、興味を持った本を、数冊購入。
島田荘司、森博嗣をはじめ、いろんな作家の作品を読むきっかけとなった。

文章で書かれた建物を3次元化してみる。
ミステリを読む上で、特に意味など無いではないかと思われる方もいらっしゃるだろう。
しかし、本書を一読してみて欲しい。
何気なく読んでいたミステリの舞台の裏側が見えるかもしれない。

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2008/10/05

「死体」を読む

「死体」を読む
著者:上野正彦
★★★☆☆

書店で見つけて、思わずタイトル買いしてしまった本である。
ミステリ好きとして、無視できないタイトルだとは、思わないだろうか?

この本の中では、元監察医である著者が、その経験を基に、エドガー・アラン・ポーの「マリー・ロジェエの怪事件」や、芥川龍之介の「藪の中」、横溝正史の「犬神家の一族」などの殺人事件を検証している。
それぞれの被害者の状況検分や、犯人の検証など、実際の法医学からみておかしな箇所を指摘している。
そういうことにこだわらなくても、面白く読めるのがミステリなので、それはそれでよいのだが。

また、面白い見解を示してくれた。
山の近くで育った犯人は海に死体を捨てに行き、海の近くで育った犯人は山に死体を捨てに行く、というのである。
山で育った人間には、重い死体を担いで山の中を歩き、地面を深く掘って、永久に死体を埋め隠すのが難しいことをよく知っている。
海で育った人間には、海流や時化の関係で、死体が岸へ打ち寄せられることを知っている。
だから、お互い逆の方法を選ぶというのだ。
著者ご本人が多少苦し紛れの説だ、というのだが、私は納得してしまった。
そういうものかもしれないな、と。

ミステリのみでなく、実際の事件についても数件触れられている。

生きている人間を相手にして病原を突き止める臨床医と、死体を前にして何故に死んだかを突き止める監察医。
生きている人間ならば、自分の状態や症状が起きる前後に何をしたかなど、医者に向かって話すこともできるだろうが、死体はそうはいかない。
「死人に口なし」という言葉もある。
が、しかし本当にそうなのだろうか...?
「死体」を事細かく検分することにより、「死体」が自分の死因を語ってくれることもあるのではないだろうか。

著者が指摘しているのは、我が国において監察医の制度が整っているのは、まだ大都市圏のみだということだ。
その他の地域においては、解剖して死因を明らかにしたい場合でも、財政的な問題などで不可能になるケースもあるのだそうだ。
本書を読んで、解剖せずに「病死・自然死・事故死」などと判断された死体が、実は殺害されたものであるというケースも、十分にあり得るような気がしてきた。

自分を死に至らしめた理由を話したがっている「死体」を黙らせてしまっているのは、こういう制度なのだろう。
今後、監察医制度がさらに整備された暁には、「殺人事件」がさらに増加するかもしれない。
いままで表に出てきていなかったものが、浮かび上がってくるからだ。

法医学の重要性を改めて認識できた気がする。
著者の他の作品も読んでみたい。
また、随時、ご紹介していきたいと思う。

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2008/09/07

氷の華

氷の華
著者:天野節子
★★★★★

この秋に米倉涼子主演でドラマ化されると聞いたので、まずは原作を、と読んでみた。
米倉涼子演じる「悪女」は、私の好みの女性でもある。
「黒革の手帖」しかり「わるいやつら」しかり。
悪女ではなかったけれど、「不信のとき」もおもしろかった。
いずれも原作も読んでいる。
いわゆる「悪女」ではなかった「モンスター・ペアレント」はイマイチだったな。

さて、このミステリ。
500ページほどあるけれど、それを感じさせないほど一気に読み進められる。
ストーリー展開が上手すぎて、目が離せないのだ。
主人公である恭子は上流階級のお嬢様。
不妊治療に6年間を費やしたにもかかわらず、夫との間には子供が生まれなかった。
それが、気位の高い彼女のウィークポイントだった。
そこへ、夫の愛人を名乗る女性から電話がかかってくる。
妊娠したので彼と離婚してくれと申し入れしてくるのである。
電話で子供に恵まれなかったことや家事が一切できないことを揶揄され、逆上した恭子は殺意を抱く。

と、第一の殺人まではこんな感じ。
しかし、彼女が殺したのは電話の女ではなかったのではないかとの疑惑が浮上する。
彼女が殺したのは誰だったのか。本当の犯人とは...。展開が二転三転する。
結局のところ誰が勝って、誰が負けたのか、読了した今もよくわからない。
途中で飽きさせることなく、読み進めさせる力はすばらしい。
これが作者・天野節子の処女作とは思えない。しかも当初は自費出版だったそうだ。

米倉涼子主演でドラマ化されるということを知っていたので、読みながらも映像が頭の中に浮かんできた。
まるでドラマを先取りして観ているような気分だった。
共演者は誰なのかは知らなかったけれど、夫役が堺雅人というのは少しイメージが違うな。

原作は高得点。
恭子タイプの悪女は、やはり私の好みだ。
高慢だけれど、薄いガラスのように少しヒビが入るとバラバラに壊れてしまう女性。

このミステリがどのように映像化されているのか楽しみ。
録画してあるので、前編・後編を一気に観る予定である。

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